次世代のモノ作りに挑戦 第18回
株式会社美装いがらし 専務取締役 五十嵐 昌樹氏

ガーゼ服の自社ブランドを展開
素材開発から縫製、販売まで一貫で

新潟県糸魚川市にある美装いがらし(五十嵐紘英社長)は、レディスのブラウス、シャツをメインに生産しています。創業以来50数年間で培ってきた高い技術力を生かし、国内工場ならではの高品質なモノ作りを強みとしている工場です。2005年にはガーゼ素材に特化したファクトリーブランド「ao(アオ)」をデビューさせ、商品企画、素材開発から縫製、販売まで一貫体制を作り上げ、現在は美装いがらしの生産の約半分をアオが占めるほどになっているそうです。アオをスタート後、地元でのイベントや地域貢献にも取り組んでいます。美装いがらしの専務で、関連会社アオの社長を務める五十嵐昌樹氏に生産現場の現状やアオの取り組みについてお聞きしました。

ー美装いがらしの概要からお聞かせください。

 「1967年に横浜で創業し、73年に社長の故郷である糸魚川に工場を設けて今日までやっています。生産アイテムは百貨店向けを中心とした大手アパレルなどのブラウス、シャツが約9割で、そのほかユニフォーム、ボトム、ワンピースなども手掛け、1日の最大生産数量は350着。手取りのタックや細かいフリルなどブラウスで蓄積してきたモノ作りや、95年に自社開発した形態安定ベーキング機の加工などの技術力で評価を頂いてきました。人員は現在63人で、このうち約4人がアオの担当。アオは東京に企画の人員がいますが、糸魚川にも企画、出荷などの業務をするスタッフを配置しています。」

シャツ、ブラウスをメインにする美装いがらしの生産現場

ー2005年から自社ブランドのアオを立ち上げました。

 「その頃、中国への工場進出を計画していたんですが、取引先が破綻するなど先行きが見えにくくなり、何らかの対応策が求められていました。そんな中、経済産業省の中小繊維製造事業者自立事業に応募し採択されたのが自社ブランドを本格的に始めたきっかけです。スタートに当たっては売ることが課題で、更に商品の良さをどう伝えるかというのが難しいと考え、雑誌の編集者をしていた知人をディレクターに迎えました。ガーゼ服に特化したのは、ベビー服などに使われていた肌に優しく、肌触りのいい素材を大人服として活用することに着目したわけです。当時、ネット検索してもガーゼ服はなかったし、チャンスはあると。最初は素材くくりでブランドを立ち上げるのはナンセンスと周囲からすごく批判されましたが、中小企業でも世の中で一番と言われるモノを作るには特化した商品が必要だと思ったんです。ちょっと勘違いしていたのは作ることには自信があると思っていましたが、ガーゼ素材は本当に難しくて苦労しました。それでもデザインやパターンなどで外部のみなさんの知恵をお借りしてやってこられました。何よりガーゼは綿素材であり、オリジナル素材の開発に当たっては形態安定加工以来お付き合いのあった日清紡さんの力をお借りできたことが大きかったですね。」

ー現在は。

 「ブランドデビューと同時に東京の代官山にショップを出し、2012年に分社化し『株式会社アオ』を設立しました。昨年11月に代官山のショップは卒業し、今はECによる直販が約40%で、百貨店では大阪の梅田阪急、博多阪急に販売員を置いて出店しているほか、販売員を置かない形で川西阪急、地元の新潟伊勢丹でも販売しています。また卸もやっていますし、昨年からは店舗に我々が商品を置き、お客様がそこで確認・決済した商品をアオから直接お送りするという形態のパートナーシップ店を始めています。」

ーアオはファクトリーブランドならではの仕組みを作り上げています。

 「アオは売り上げの約8割が定番品で、新製品も年2回発表していますが、これは実験商品という位置づけです。ファッション業界では大量生産・大量廃棄が問題になっていますが、アオはスタートから16年間、製品を1枚も破棄したことがありません。1枚1枚最後まで販売していきます。現在、美装いがらしの生産の半分をアオが占めていますが、自社工場で独自の計算式によって必要量を見極めながら生産しているからこそ、売れ残りが出ない仕組みを実現しています。そのためにちょっと広がりすぎたアイテムをもう一度見直す必要もあると考えています。」

ーガーゼ服のモノ作りの難しさは。

「アオの最も売れ筋の商品が『なめらか天竺』と名付けているカットソー商品ですが、タテ・ヨコの縮率が40%近い素材。縫製後に製品染めをするのでCADでパターンを調整、延反・裁断では引っ張らないようにし、縫製も送り歯などで少しでもキズを付けたらアウト。すべての工程の作業者が同じ感覚でやらないと規格通りのサイズになりません。アオは素材開発から企画、縫製、販売まで一貫して手掛けているので可能になっています。自社ブランドに取り組んだことで美装いがらしも単なる委託加工だけではなく、素材や製品での提案が強みになっています」

デジタル本縫いも活用

ー生産現場ではJUKI製品を多数採用されています。

 「本縫いミシンは創業以来ずっと基本JUKIさんです。難素材のカットソーラインには本縫いのデジタルミシンを導入しており、縫製後の糸残りをカットしなくてもすむようにしたいと考えています。またシャツ、ブラウスはボタンが多いアイテムですが、JUKIさんのボタン穴かがりミシンの性能がすごく良くなり、ふわふわしたガーゼ素材やカットソー素材でも品質や生産効率が高まりました。」

 

難素材のカットソーラインに導入されているJUKIのデジタル本縫いミシン

ーファクトリーブランドの立ち上げを機に地域で様々な取り組みを始めていますね。

 「地元の糸魚川で茶綿(茶色い綿花)のオーガニックコットンの栽培を開始し、国内で紡績してガーゼ天竺となって戻ってきた素材を使ってベビー肌着に仕立て、糸魚川市内で生まれた赤ちゃんにお届けしています。また毎年ファクトリーイベントを開催し、アオの販売はもちろん、食の提供や綿花摘み、藍染めなどを行ってきました。これは地域の盛り上げもありますが、社内のコミュニケーションや、工場のスタッフに売ることを体験してもらうのが狙いです。社員がアオを着させたいと、家族や知人を誘って来てくれるようになったのが一番うれしいことですね。」

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