次世代のモノ作りに挑戦 第25回
秋田ファイブワン工業株式会社 取締役会長 佐賀 善美 氏
メンズとレディスを半々に生産
毛芯縫製もどんでん仕様もこなす
秋田市にある秋田ファイブワン工業は、デザイナーブランドやSPA向けなどを中心としたメンズとレディスの高級ジャケット、コートをメインに生産しています。メンズで培った高い技術で毛芯縫製から「どんでん」仕様まで高品質の商品を高い生産性でこなせるのが大きな特色です。人間性を重視した自己啓発型生産工場を目指す「ヒューマンファクトリー」を掲げ、JUKI製品をはじめ積極的に設備投資を進めながら、働きやすい環境作りや人材育成に力を入れてきました。今年2月に戸田商事(東京)の完全子会社となりましたが、引き続き秋田ファイブワン工業をけん引する佐賀善美取締役会長に、コロナ禍を経て大きく環境が変わるモノ作りの現状や今後の方向性についてお聞きしました。
―国内工場は忙しさが続いています
例年5月のゴールデンウィーク後は閑散期ですが、今年はまったく仕事が切れません。もう秋冬物が11月初めまで満杯ですし、来春夏物のオファーがすでに来つつあります。国内工場の縫製キャパが縮小していることと、百貨店の高級品が好調なんです。しかし、少子化による人手不足、電気、石油など生産インフラコストの高騰で、今後も国内工場の縮小・閉鎖は続くでしょうから、まだ2年ほどはこの状況が継続すると見ています。私どもの工場はここ3年間は平均ロットが90以下でしたが、今年に入ってから120以上になり、このあたりが一番いいなと。うちは多能工の育成を徹底的にやってきました。それがイコール欠勤対策にもなるし、小ロット多品種化にも対応できるようになりました。高付加価値で加工賃が高いモノ作りで生き残っていきたいと考えています。
―現在の人員は
2017年は120人でしたが、コロナ禍で人が全然入らず今80数人です。日本人だけでやってきましたが、高校の新卒者は県内にある他業種の大手が総なめに採ってしまう。だから外国人実習生受け入れにトライすることに決めました。第一弾で今年8月にインドネシアから4人入ります。それと将来の幹部候補生として日本人の大学生を入れたい。その二面作戦です。この工場は100人未満で運営して利益を出し、社員がちゃんと暮らしていける会社にしたいんです。現実に今120人の時と同じ収益ですから。社員の給料を上げて、質の良い社員で質の高いモノ作りをする。それによって日本ならではのモノ作りができる工場を目指したいんです。戸田商事によるM&A(企業の合併・買収)は後継者問題を考慮した判断です。縫製工場は女性の比率が高く、新体制でも安定して運営していくために女性管理職を早急に育成していきたいと考えています。
―メンズとレディスの両方を手掛けています
メンズとレディスがそれぞれ50%、50%で、どっちにも行けるようにしています。アイテムはジャケット、コートが主力で、やらないのはシャツ、パンツくらい。メンズの毛芯縫製もどんでん仕様もできる。しかもコートもできる。それがうちの売りです。メンズの技術は捨てがたいんです。毛芯縫製ができる工場はもう国内では少ないし、しかもどんでん仕様もこなせる工場はなかなかありません。毛芯縫製は全体の10%しかありませんが、1千5百万円もするハザシを導入している。何故かというと、20年間大事に使えば、うちのラインが必ず必要になります。レディスでも中間アイロンでちゃんとクセ処理します。メンズで培った工場ですから、それをやらないと気が済まない、そういう丁寧なモノ作りが風土になっているんです。メンズ仕立てのレディスが欲しいというニーズは結構あります。
―そんな企業風土は人材育成によって出来上がってきたんですね
特に小集団活動です。これは月に1回、昼飯後の30分間やるんですが、今ではこれがわが社の財産。7、8人のグループで全員が発言するようにして、会社に対する提案、改善またはクレームを出してもらいます。議事録1㌻にちゃんと書いてきます。会社側はそれに対してできることはすべて応えなきゃいけない。この7月から労働時間を見直して、土曜日休みを大幅に増やします。これも小集団活動からの提案だし、求人対策にもつながります。「ARIGATOカード」もそう。頑張っている社員に、私の似顔絵を描いたカードを渡し、3カ月に一度、多く集まった人たちに金一封を贈る制度です。カードは会長、社長、男性の部課長が5枚ずつ持っていましたが、マンネリ化しないように女性係長も加え、今では1人3枚ずつ持っています。これも好評で継続して欲しいという声が多くあります。小集団活動には男性の部課長は入っていないので現場の女性たちのストレス解消になるし、問題を解決してもらえたという会社側の姿勢を喜んでくれます。
ICT化など積極的に設備投資
―設備投資も積極的ですね
CAD/CAMや特殊ミシンなどの投資は継続してやっています。設備はほとんどJUKI販売さんを経由して購入していますね。県の「IoT等先進技術横展開事業費補助金」を活用してICT(情報通信技術)化も進めました。2021年春から、1つは生産ラインの出来高を見える化する「人時生産性システム」の導入、2つ目が成果物の中間検査の結果を記録する「検査管理システム」の導入を行い、3つ目としてタブレット活用による「ペーパーレス化」を進めました。人時生産性と検査管理は現場に大型モニターを設置し、全員に見える化し効果が現れています。ペーパーレス化では、班長以上がタブレット端末を持ち、指図書から生産計画まですべて情報を共有しています。
―東北六県縫製団体連合会の会長を務めていますが、今月、主催する第45回東北アパレル産業機器展が岩手県で開かれます。
今、コロナやウクライナ戦争で環境が大きく変わろうとしています。資源エネルギーはじめ諸物価の高騰、さらに人材不足と課題が山積しています。縫製業界においても深刻な問題です。こういう背景の中でいかに生き抜いていくべきか。今回の展示会で出展者の方々と我々縫製業界がじっくり話し合い、投資効果を考えた設備投資を実施し、働きやすい環境を整え、生産性向上を図るべき道をみなさんとともに見出せればと考えています。