次世代のモノ作りに挑戦 第24回
株式会社タカラ 代表取締役社長 米倉 将斗氏
「STGs」を掲げて改革に着手
働く環境の整備や新規事業の創出へ
国内のラグジュアリーブランドやパリコレ参加ブランドなどを取引先にするタカラ(岡山市)。発祥の地の小豆島にあるタカラアイルを主力生産拠点として、タカラモードカレッジを併設し働きながら学ぶ環境を作り、人材を育成してきました。創業75年を迎えた今、SDGs(持続可能な開発目標)をタカラ風に置き換えた「STGs」(サステイナブル・タカラ・ゴールズ)を掲げ、働く環境の見直しや人事評価制度の確立、既存ブランドとの関係を大事にしながら新規事業の創出など新たな改革に乗り出しています。デジタルソーイングシステム「DDL‐9000C」をはじめ、JUKI製品もそうした同社の持続可能なモノ作りをサポートしていきます。
ー新型コロナ禍で縫製キャパが縮小し、国内工場はフル稼働の状況が続いています。
当社も気が付いたらお断りする作業をしていました。なるべくすぐにお断りしないで生産を受けていきたいんですが、本当にキャパがないんです。データを見ると昨年一月過ぎからその傾向が始まり、肌感覚で言ったら春を迎えた段階でまったく今に近い様子でした。ただ、これまで長くタカラを支えてきて頂いた得意先、新型コロナ禍の中でも支えて頂いたブランドや、またタカラの技術、体質を真に評価してもらえるブランドには応えていけるようにキャパを確保しますし、今後も深耕させていきたいと考えています。
ータカラアイルは併設するタカラモードカレッジで技術者を養成してきました。
現在、小豆島工場のタカラアイルは約80人です。新卒者はコロナ禍でも毎年10人ほど採用していましたが、この春はすでに12人の新卒者の入社が決まっていますし、もう少し増えるかも知れません。すべて専門学校からで、従来と同じように東京、横浜、名古屋、大阪、福岡などから来ます。2年間、働きながら縫製の技術や知識を学び、3年目に国家試験の技能検定2級を取得しますし、5年目から受検できる1級取得まで指導します。腕のいい人たちの話では、現場でオン・ザ・ジョブのカリキュラムの中でやった方が技術が身につくと言うんですね。
ータカラのモノ作りの特色は。
もともと海外の高級婦人服と提携しているアパレルさんの商品などを手掛けてきました。その蓄積があるので、アバンギャルドなブランドの商品を生産した時でも、背中心を見てきれいだって評価されます。またザ・カシミヤのような縫ったらクレームが出そうな素材も1発目からきれいに可愛く仕上げます。そうしたすごみのあるテクニックがまだ残っているんです。と言うのも、40代半ばから50歳過ぎまでがトップにいて、その下の30代までつながっている。この間に技術を継承させていきたいんです。
ーそうした中、STGsを掲げた取り組みを始めたそうですね。
1年ほど前から「持続可能な未来の縫製業」を目指すというSDGsをもじってSTGsと名付けた取り組みを進めています。その底流にあるのは最近の採用の中心になっているZ世代への対応。デジタルネイティブと呼ばれ、プライベートな時間がとれないような働き方は好まないと言われ、定着率が低くなっていたんです。そこに新型コロナに見舞われた。第1波では当社も医療用ガウンを縫いましたが、私は医療用ガウンを縫いに来たんじゃないと辞めて行く人もいたし、地元行政からの自粛要請で行動制限されたことなど、コロナ禍はそうした影響で社内の気まずさを強く感じたんです。それがきっかけで早急な見直しが必要だと考え始め、持続可能な目標としてそれまで考えてきたことをまとめ、STGsを打ち出したわけです。正直コロナがなかったら動き出せなかったと思います。
ーまず取り組んだことは何でしょう。
第1は「社員が長く安心して働ける環境の整備」で、時代の変化とともに若手社員の考え方が多様化していることにしっかりと向き合って考えようと。タカラアイルは基本的に全寮制。仕事の厳しさはもちろんあるんですが、新入社員になるほど寮生活になじめない人が多くなっていました。そのため初めて一人暮らしを選択できるようにしました。小豆島は瀬戸内国際芸術祭を機に移住者が増え、きれいなマンションやハイツが拡充されてきたこともそれを可能にしました。だけど今のところマンションの選択肢を取らず寮を選んでいます。寮は格安ですし、食事もホテルのコックさんがやってくれますからね。もう1つは個室のシャワールームを完備しました。寮には大浴場がありますが、毎年、大浴場に入れないために入社を諦める学生がいたそうで、関西地区の学校から改善を要望されていましたので、完備したことを伝えると喜んで頂けました。仕事の厳しさは分かっているが、それでも小豆島工場に学生を送り込みたいと言ってくださるので、これからも社員の生活環境は学校の先生とも話し合いながら改善を継続します。
ー2番目の柱は。
今まで明確なものがなかった人事評価制度の見直しです。要は技術的に飛び抜けて上にいかなくても、頑張って努力している人が評価されるべきです。そういうところの評価の仕方が明確じゃなかったんで、あらゆるところにそういうものがなかろうかと、社労士や社内の幹部たちと検討し、この春から動かし始めます。
ーSTGsでは新規事業創出としてファクトリーブランドも打ち出しています。
STGsでは、最初にお話ししたタカラの技術を真に評価してもらえるブランドとの関係性を深くすることを柱に掲げています。あくまでも当社のベースはOEM(相手先ブランド生産)です。しかし、工場としてコロナのような事態に直面して縫製ラインを止めるわけにはいきません。最近ファクトリーブランドを手掛けた工場のみなさん、同じような思いだったはずです。私たちが手掛ける新規事業はうちが持っている高い技術力と高級素材を使って、シンプルで上質なものを受注生産するファクトリーブランドです。すでにネット販売していますが、岡山本社に隣接するスペースを改装して店舗を開設します。ただ当初は店舗にあまり負荷を掛けないでネットで回していくやり方をします。アパレルさんと同じことをしようとは考えていませんし、派手さはありませんけど、地に足を付けた形で進めます。