わが社のモノ作り戦略 第19回
永山産業 代表取締役社長 永山 龍大郎氏
東北の縫製業界で世代交代が進み、有力企業で3、40代の若手社長が相次いで登場しています。福島県白河市にある永山産業もその一社で、今年1月1日から36歳の永山龍大郎専務が3代目社長に昇格、前社長の永山龍雄氏は会長に就きました。同社は約90人の人員で、メンズのシャツと婦人服のOEM(相手先ブランド生産)を主力としていますが、一方で福島県内の企業や研究機関と連携し、地元のシルクを使ったオリジナルブランド事業にも取り組んでいます。龍大郎新社長は、新たなステージの縫製企業のカジ取りを任されています。
世代交代で新たなステージへ
ー1月1日から新社長に就任されました。まず抱負をお願いします。
いずれは継ぐことになると思っていましたが、ただ継承するだけではなく、新しいことにも取り組んでいかなければならないと考えています。だから今年年始には「飛躍の年にしたい」と社員みなさんに挨拶しました。創立47年が経過し、今までのOEMとともに、その基盤の上に自分たちでモノをクリエートする事業を両立させていく。その新しい時代に対応するための生産システムや人材を作り上げ、そして何よりモノ作りの感性を高めていく必要があります。それは日本でモノ作りをする理由、メード・イン・ジャパンと海外生産は何が違うかということにもつながる。ブランドさんと協業してモノ作りし、それがもっと売れるようにするには製品のクオリティーや価格だけではなく、高い感性が求められます。そんな高い感性が持てる工場として継続的なお付き合いをして頂ける関係を今まで以上に強めないといけない。仕事がない時にはないという話になってしまわないため、お互いどういうことができるかをこれまでの営業担当という立場プラス会社の社長として考えていきたいと思っています。東北には縫製企業が集まる東北6県縫製団体連合会(縫団連)と青年育成会があります。大先輩や少し前に社長になられた仲間もいるので、何でも相談させてもらえて心強いし、生産服種は違うけれど新しいアイデアも得られるので本当にかけがえのない存在です。
ー生産は平田中央工場(平田村)と南湖工場(白河市)の二工場体制ですね。
平田中央工場は54人で、メンズのカジュアルシャツを中心に1日約6百枚生産しています。ドレスシャツでスタートした工場ですが、ドレスシャツは海外生産に移行していくという当時社長だった現会長の判断で20数年前からカジュアルシャツ主力に切り替えました。シャツ工場だけに品質を一定化するため自動機や半自動機を多用しているのが特色で、会長が作り上げたシステムを引き継ぎながら、新しいJUKIさんの機械も入れています。1品番千枚を作っても消費者が購入されるのはその中の1、2枚ですから、いずれも同じ品質に仕上がっていることがブランドさんの信用力になるし、それが工場として守らなければならない品質です。だから裁断、縫製して畳んで袋に入った状態がすべて同じ顔に上がるモノ作りを心がけています。カジュアルシャツは前立ての作りやポケットのサイズ、カフスの形が多種多様で、生産効率が落ちてしまうのが悩みです。
ー国内のシャツ工場も少なくなっています。
最近、シャツ工場を探していますという話は多いですね。シャツ専業でスタートした会社であることを商社の若い婦人服担当者の方には知らない人もいて、永山さんのところはシャツもやっているんだ、ということで引き合いもあります(笑い)。国内のシャツ工場として残っていかなければいけないと考えていますので、日本でモノ作りしていくには先ほど挙げた感性をどう高めていくかということが課題になります。ですから、専務時代にも営業している中で、日本の小さなブランドさんであってもモノ作りを世界に発信しようとしている方とはお付き合いをさせてもらうようにしてきました。そこを応援していかないと、その方たちも日本で作るところがない。日本で作って海外に販売するということであれば、ある程度工場も協力しましょうという話をしてきました。
ーヘッドクオーターの役割も果たしているのが南湖工場です。
南湖工場は36人で、シャツの裁断も行って平田中央工場に断品投入しています。縫製部門は婦人服で、生産アイテムはジャケット、コート、ブラウス、ワンピース、ベストと、ボトムを除く重衣料から軽衣料まで手掛けています。生産量はジャケット換算で1日50~70着。縫直が12人と少ないので、全員で支流、全員で本流を上げるという形でやっています。
感性の高いモノ作りを目指す
ー国内は人手不足が課題になっていますが、特に東北は影響が大きいようです。
確かに人の確保は厳しいですね。東日本大震災後、建設・土木関係の初任給が格段に良すぎて給与面で格差がありすぎます。南湖工場には研修生の1期生で入り、帰国、その後に来日し、まもなく永住権を取得できそうな中国人女性が1人いますが、当社は大震災の前年10月に両工場とも中国人研修生の受け入れを止めました。日本人オンリーの決断をしたのは、OEMもそうですが、日本で作った製品を世界に発信していくという新しい事業を想定しているからです。今、南湖工場の人が増えないのは震災の影響が大きい。しかし、南湖工場の縫製現場では若い20代が係長を務めています。その人たちが技術者として育ってくると、教えられる体制ができます。そうすると新卒者と指導者の年齢の差があまりなくなる。年の近い人から教えてもらうという状況ができれば一気に工場が若返ると期待しているんです。
ー産地や地域と連携した「福島ブランド」の開発にも取り組んでいますが、永山社長はその推進役を務めてこられました。
平成19年度中小繊維製造事業者自立事業に採択され、地場産業である福島のシルクを使った婦人服ブランドに取り組んだのがスタートでした。その中でデザイナーさん、生地メーカーさんなどいろんな方とお会いし、モノを作っていくみんなが生きるやり方を考えないといけないことを学んだし、わたしたちが持っている思いをどう共有してもらうかということが一番大切なんだと理解した。その後もシルクを使った商品開発に取り組んできましたが、トータルブランドとして発信しなければいけないと考え、福島県にはニット企業さんも絹織物企業さんもあるのでコラボレーションすることにしたわけです。
産地連携で独自ブランド発信
ーそれが永山会長が理事長を務める福島県ファッション協同組合ですね。
現在、組合のメンバーは布帛縫製2社、ニット企業2社、織物企業1社、ミシン糸企業一社の計六社で、福島県ハイテクプラザの福島技術支援センターが研究開発をバックアップしてくれています。織物会社は世界一薄いシルクの織物を作り出しており、糸作りから製品まで一貫してオール・フクシマでやっていきます。この研究・開発と販路開拓の取り組みは平成26年度の戦略的基盤技術高度化支援事業に採択されました。これまでシルクにこだわり、今回の事業でもシルクがメーンですが、リネンやラミーなどの天然繊維も組み合わせた商品開発を行い、製造から販売までの独自ブランド商品の確立を目指すことにしています。3年間の継続事業で、今年度は素材開発の基盤を作り、現在、1つずつ新しい素材を作っている最中で、27年度はイタリア、フランスの海外展示会に出展する予定です。ブランドは「フクシマ・プライド・オブ・シルク」で、デザインは3人の日本人デザイナーを起用しています。最初に目標としている展示会が来年初めにあるので、この春までにはプロトを作り上げ、修正を加えて展示会主催者の審査を受ける今年7、8月までにルックブックなども作成する計画です。高級ブランドとして打ち出すので富裕層が集まるドバイでの販売も検討しています。
新社長の若い行動力に期待
会長 永山 龍雄氏 私は2代目ですが、実質は20代の工場長時代から社長の仕事をして来た。新社長は1月1日生まれで、今年36歳というちょうど干支の当たり年でもあるので社長交代を決めたわけです。東北の縫団連の企業も経営者が若返り、それも頭の中にあってあまり遅くならない方がいいと考えていました。
新社長は高校を卒業後、イギリスに行って大学を卒業。まっすぐ帰ってこないで2006年11月にイタリア事務所を立ち上げた。そこは1年足らずで閉鎖し、2007年夏に帰国したが、イタリアの経験は感性やモノの見方などに役立ったはず。私は約20年前から福島県ハイテクプラザで、福島県産のシルク開発に取り組んでもらってきたが、いい素材が出来上がっているのでそれを引っさげて世界に進出しようと考えた。今、それを組合で現実化しようとしている。新社長の若い感性や行動力でブランド事業を引っ張っていってくれると期待しているんです。
JUKIは世界のアパレル生産を全力でサポートします
電子ボタン穴かがりのインデキサーなど導入
白河市の南湖工場から車で約1時間。福島県の南東部に位置する平田村にある平田中央工場の最新設備として、JUKIの高速電子ボタン穴かがりインデキサー「AC-172N-1790」、高速電子眠り穴かがりミシン「LBH-1790シリーズ」が活躍しています。
平田中央工場では数千枚というスーパー大ロットの受注もありますが、通常は千枚を切るロットがほとんど、小ロットでは数十枚の商品も入ってくるそうです。穴かがりの設備が入れ替え時期になり、こうした小ロットに対応する目的でものづくり補助金を活用してこの2機種を一昨年12月に導入されました。
AC-172N-1790は高速電子眠り穴かがりミシンLBH-1790の高速頭部と、プリセット機構の標準装備による生産性向上、さらに、新機構サブクランプ装置により正確で安定した穴かがり品質を実現した次世代の新型ボタン穴かがりインデキサー。縫製中に次の生地をセットできるプリセット機構により生産性がアップ、縦縞柄への対応力を強化した新機構のサブクランプ装置により生地ズレを防止する特徴があります。また、同時に導入した2台の高速電子眠り穴かがりミシンは1人で受け持ち、オーバーラップ作業しています。
生産効率アップに貢献
「小ロットですから、オペレーターが自分でプログラム設定を変えられる機械にしました。液晶パネルで可視化ができるし、センサーが付いてセンターも出せるようになった。作業効率が約10%アップできると見込んでいましたが、その通りに上がりました」。永山社長は見込みどおりに満足そうな様子でした。
今後も必要な設備には投資して行くとして、現場改革についてこう語っていました。
「極力現場に行って、管理職よりは現場のみなさんと話をすることを重要視しています。その中で作業や設備への問題点を直接聞くことができます。それに対して私も素人発想を極力するようにしています。若い社員たちは柔軟な発想をしますが、ベテランと呼ばれる技術者はともすると固定観念が強く、こうだから出来ないという話になってしまいがち。しかし、できない理由ではなく、できる理由を探さなければいけない。会長が掲げてきた言葉の一つに『出来ない理由は言い訳しないで、如何にすれば良いのかとことん考える』があります。新しい機械を入れて刺激を高めるというのも一つの方策ですが、最初から機械の構造上でできないという話になってしまうのでは現場の改善は進みません。効率向上と品質安定という点では新しい設備には勝てませんから、できるだけ柔軟な考えと工夫で取り入れていきたいと考えています」