わが社のモノ作り戦略 第15回
早川繊維工業 代表取締役社長 三浦 正彦氏

大阪府柏原市にある早川繊維工業は、1918年創業の老舗武道着メーカー。「九櫻(くさくら)」ブランドで知られる主力の柔道着は、世界で11社しかない国際柔道連盟(IJF)の認定を受け、日本国内はもとより世界のトップクラスの選手に愛用されている。同社は海外生産を活用するものの、国内にも織布から縫製までの一貫体制を維持してきた。昨年9月からはJUKIの厚物用ミシンを採用し、柏原市内の自社工場である「今町工場」の縫製部門を強化している。6代目になる三浦正彦社長に本社でお話を伺い、今町工場を訪問した。

世界の一流選手が愛用する老舗柔道着メーカー

ーまもなく創業百年という長い歴史をお持ちです。

創業は大正7年5月ですから、今年で96年目です。もともとこの地域は河内木綿の産地で、創業者の祖父が河内木綿を使った独特な刺し子織りの柔道着を作った。昭和14年4月に早川武道具株式会社として会社組織にし、その時に織機を取り入れた。戦後の昭和22年6月に現社名に改称し、現在に至っています。メーンブランドである「九櫻」の名称は、初代社長の出生地が恩智(八尾市)で、南北朝時代に恩智城に構えた武将の紋所が「九桜」であったことが由来です。"武"につながる由緒ふさわしいイメージにちなんで登録商標としたもので、柔道着に付けている「S」のロゴもSAKURAのSから取っています。

約100年の歴史の「九櫻」ブランド

ー主力の柔道着は国内でも高いシェアを持たれ、国際柔道連盟公認製品にもなっているそうですね。

柔道のほかに剣道、居合道、なぎなた、弓道などいろいろな道着をやっていますが、柔道着を中心とした柔道関連用品が六割くらいを占めています。国際柔道連盟に認定されている柔道着メーカーは日本ではうちともう1社の2社だけで、ヨーロッパの9社を含めて11社しかない。世界大会の試合では加盟したメーカーの柔道着しか着用できません。日本では検査機関のQTEC(日本繊維製品品質技術センター)が規格に合っているかどうかすべてチェックし、その認定を受けています。

ー国内外から高い評価を受けている理由は何でしょうか。

織機を持って生地を自社で織っており、生地から縫製まで一貫した生産をしている柔道着メーカーというのは世界でもうちだけです。生地は独自の織り方で、裏に出るごわごわ感を少なくし、肌触りがいい生地に織り上げている。強度はIJFの認定を受けているメーカーはみんな合格しているから、強靱さプラス着心地という部分が評価されていると思っています。カッティングは全日本柔道連盟(全柔連)やIJFの規格がありますが、前合わせなんかが各社微妙に違い、ユーザーの声を聞いて反映させています。選手向けの道着とともに、カタログには載せていませんが、昨年から新たに「盡己(じんき)」という柔道着の販売を始めました。これは柔道を極めた人達に着て頂く製品で、より手刺し風に近い柔道着を作り上げています。製品の状態で洗いまで行って仕上げ、ものすごい手間を掛けています。

昨年から発売した高級柔道着の「盡己(じんき)」

織布から縫製まで一貫体制

ー柔道着のモノ作りのポイントはどこなんでしょうか。

背広とか一般の衣料品の生地は薄物ですから、ミリ単位の調整が出来やすいでしょう。でも、柔道着の生地は厚い。その生地を1mm単位できれいに合わさないとダメ。全柔連やIJFの服装規定で、袖の長さとか裾の寸法などが決まっている。しかも生地は綿だから洗うと縮む。その縮みを考慮し、洗ってちょうど規格に合う寸法になるようにしないと、着用した選手が服装規定に合わずに試合に出られないことになると大変。だから仕上げ寸法は品質管理できっちりと測らせている。生地段階で染め工場から上がってきたカットサンプルを洗って縮みを見て、1点ずつ管理しています。それと柔道着のさらしの色は白だけど、前身の刺し子の部分と裾の生地、それから襟、この3点の厚さが異なるので微妙にみな色合いが違う。それを裁断ロットごとに同じ色に合わせないといけない。帯もフェルト芯が入ってかなり厚いが、ちゃんとミシンのステッチを入れて仕上げています。

帯の縫製に活躍していた1本針本縫い上下送り倍釜ミシン「DU-1181N」

ーJUKIの厚物用ミシンを積極的に導入し、自社工場の強化をされています。

かつては自社工場を持っていたが、最近は協力工場に依存していた。ところが協力工場が高齢化し、生産能力が落ちてきたんです。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催が決まるなど追い風が吹き、どんどん拡販しようとしている時に生産体制が先細りしてはどうしようもない。そのためもういちど自社で縫製工場を立ち上げようと決め、3年前から中国人実習生を受け入れ、縫い子を養成していっている。2005年1月に新しい本社ビルが完成して移ったが、それまでの旧本社社屋が車で6分ほどの同じ柏原市内にあり、そこに「今町工場」を設けてJUKIのミシンを設備し、縫製工場を強化することにした。別棟の1階で織布を行い、2階で裁断している。これまで裁断は現本社で行っていたが、本社には別注の裁断だけ残し、縫製工場で生産する裁断も移した。現在、縫製は12人で、日本人女性が指導し、裁断の男性責任者も一緒に見させている。ミシンのちょっとした修理もその責任者が出来ます。

ーJUKIのミシンを選ばれた理由は。

ミシン販売代理店が勧めてくれたんです。最初は上下送りと2本針のミシンを合わせて5台入れた。2本針ミシンは柔道着の襟を叩くためです。2、3年目にまた実習生が4人ずつ来日したので上下送りや本縫いミシンを追加したという経緯です。柔道着の上着のような厚物を縫うときはどうしても上下送りが必要で、薄物の柔道パンツは普通の本縫いと、ミシンも使い分けています。

厚物の柔道着縫製に欠かせないという1本針本縫い上下送りミシン「DU-141H-7」

ー国内だけでなく、海外でも生産しているそうですが。

高級柔道着や選手用は日本国内で作っています。日本で作る純国産は日本人もそうだし、外国でも信頼度が高い。ただ、中級品までは中国やパキスタンで生産している。特に学販の柔道着は全部海外。価格的にどうしても国内で作ったのでは採算が取れません。中国とパキスタンは綿花の産地で、1997年までパキスタンをメーンにしてヨーロッパ向けにも出していた。しかし、パキスタンは物流期間が長く掛かるし、納期管理が難しかった。そんなこともあって中国に生産を移し、パキスタンを切ってしまった。ところが中国は元高が進み、人件費や社会保険料なども高騰し、しかも円安になった。それで中国だけで海外生産を守っていくのはしんどいということで、パキスタンにもつなぎを作っておこうと3年前から再度パキスタンの生産も始めています。今後、出来れば中国で作って、日本国内に入れずにそのまま海外に出す三国間貿易や、日本の保税倉庫に中国で生産した製品、日本で出来た製品を置き、一緒に輸出していくという仕組みも検討しています。

ー今後については。

我が社の柔道着は海外の選手にけっこう着てもらっており、一昨年行われたロンドンオリンピックの着用率では3番目でした。ヨーロッパでは「九櫻」ブランドはしっかりと根付いているんですよ。国内の柔道人口は少子化も影響し、どうしてももう飽和状態。それで円安という部分もあるので、昨年あたりから輸出に力を入れています。柔道が盛んなロシアを含めた中央アジア、それからヨーロッパあたりの取引がだんだんと増えています。また、2016年8月にブラジルでリオデジャネイロオリンピックが開催されます。昨年はリオデジャネイロで世界柔道選手権大会も開かれた。ブラジルでは柔道の人気が高く、柔道人口も多いし、柔道に近い道着の柔術も盛んですので、次の有望市場としてブラジルに進出する計画です。

JUKIは世界のアパレル生産を全力でサポートします

セミドライヘッド2本針本縫いなど厚物用ミシン14台が活躍

早川繊維工業の旧本社社屋にある今町工場では、JUKIのセミドライヘッド2本針本縫いミシン「LH-3578A-7」(大釜)が1台、1本針本縫い上下送り倍釜ミシン「DU-1181N」、1本針本縫い上下送りミシン「DU-141H-7」(2倍釜)の上下送りミシンが計7台、1本針本縫い倍釜ミシン「DDL-5600N-7」が6台と、今、合わせて厚物用ミシン14台が稼働しています。
セミドライヘッド2本針本縫いミシン「LH-3578A-7」は、2本針の最新鋭モデル"LH-3500Aシリーズ"の大釜仕様です。標準釜仕様より1.7倍大きい「大釜」を採用したことにより、太糸を使った縫製時の下糸交換頻度を低減。また、糸道の屈曲を最小限に抑え、送りの軌跡を改良したことにより、厚い素材の縫製でも生地を強力かつスムーズに送ります。同工場では、柔道着の襟を針幅9mmで2回縫い上げ、ステッチを入れています。
柔道着の帯の縫製に活躍していたのが、1本針本縫い上下送り倍釜ミシン「DU-1181N」です。このミシンは強力な上下送りで、送りにくい素材や段部でもスムーズに送り、ピッチムラのない安定した縫い品質を実現します。柔道着の帯はフェルト芯などが入って厚みがあり、しかも幅は4.5cmに決まっています。その幅に品番によって10本、13本、16本のステッチを等間隔に入れる必要があります。最初はチャコペンで印をしてステッチを掛けますが、慣れてくるとガイドを使ってカンで縫っていくそうです。荒川仁裁断部・縫製部主任も「ラスト1本が勝負。そこで狂ったら全部ダメで、縫い直しができません。間隔をつかみそこねたらもう終わりですが、上手く仕上げます」と称賛するほどです。

セミドライヘッド2本針本縫いミシン「LH-3578A-7」で柔道着の襟をステッチ掛け

自社工場の生産を強化

また、1本針本縫い上下送りミシン「DU-141H-7」は、独自の天秤機構・送り機構・釜などにより送りにくい素材や段部でもスムーズに送り、安定した美しい縫い品質を実現します。縫い目長さの設定は正逆とも0~9mmまで行え、柔道着の上着縫製に活躍しています。
1本針本縫い倍釜ミシン「DDL-5600N-7」は、厚物仕様は最大縫い目長さが8mmと長く、ピッチの大きな厚物縫製にも幅広く対応します。垂直2倍釜の採用により、下糸巻き量が大幅にアップし、下糸交換の頻度が低減、高能率な作業が行えます。同工場では柔道着パンツの縫製などに使われています。

三浦社長は「日本で作った柔道着はきっちり出来ていると国内外の選手からの信頼度が高いんです。この日本製をこれからも守っていきたい」と語っていました。

選手用の柔道着を作っている大阪府柏原市にある早川繊維工業の「今町工場」

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