次世代のモノ作りに挑戦 第31回
株式会社ミヤモリ 代表取締役社長 宮森 穂氏
富山発のサステイナブル工場目指す
「服の鉛筆」や、リペア事業で循環型へ
富山県小矢部市にあるミヤモリはスポーツウエアの生産から始まり、現在は競泳・遊泳の水着、ルームウエアなどを主力に手掛けています。5年前からスタートした学校体操服の事業がきっかけとなって環境に対する意識が高まり、裁断くずを「服の鉛筆」として生まれ変わらせ、大きな話題を集めました。またリペアやリメイクの事業も広げています。この循環型のビジネスを「リフォルメプロジェクト」として打ち出し、サーキュラーエコノミーの実現につなげていこうという考えです。こうした同社の生産現場をJUKIの本縫いミシンから特殊ミシンまで多様な縫製機器がサポートしています。今年4月に社長に就任されました宮森穂氏にお話を聞きました。
―まず、現状は
全員で約120人で、中国、ベトナム、インドネシアの外国人実習生も含みます。このうち学校体操服事業や、地元名産のハトムギを活用した自社ブランド「ネルコッチャ」の事業があり、これらを除く約100人が生産人員。構成は材料手配、工場管理の業務が5人、設計が5人、営業が3人、サンプルが2人、裁断が9人、検査・出荷が6人、残り70人が縫製現場で、5ラインが稼働しています。取引ブランドは2022年度まで25ブランドに達していましたが、23年度から6ブランドに大きく変わりました。生産現場の責任者が一番効率のいいライン編成を検討し、5、6ブランドに集約してアイテムをまとめたいという提案があり、それに基づいて取引ブランドを集約しましたが、逆に売上高は上がりました。以前は何でも縫えます、ミシンも何でも揃っていますというのが売りでしたが、そうすると縫製現場に投入するまでの前段取り作業が大変。その作業が軽減したので、取引ブランドが大幅に減っても生産量は変わりません。社内ではスキルアップのため、ジョブローテーションも頻繁にやっています。
―そうした中、循環型モノ作りの取り組みを強めています
これは2019年から始めた学校体操服事業がきっかけです。今ちょうど全国で600校くらいの学校に納入しているんですが、この事業を通してあらためて子供たちの大切さ、我々の未来である子供たちのために素晴らしい地球を残していかなきゃいけないというのが一番でした。富山っていう場所もあります。個人的にも山登りや走るのが好きで、北アルプスに囲まれた雄大な自然をいつまで残していきたいと。アパレル・ファッション業界は環境負荷が大きい産業といわれ、産業全体の中で2位に位置づけられています。業界の末端とはいえ、縫製工場から発信することが必要だろうと思い、我々縫製工場ができる地球再生を掲げて活動しています。
―「服の鉛筆」はその一環ですね
我々は年間60万着生産していますが、約2割の裁断くずが出ます。約23㌧にのぼり、以前からぬいぐるみの中綿や、アスファルトに入れることなどを試みてきましたが、手間が掛かるのが課題でした。そんな中、社員の一人が炭にして活用できないかという提案をしてくれました。調べると、近くに炭化装置の製造会社があり、そこの社長から『鉛筆の芯にしたらいい』というアイデアをもらいました。体操服を着用する子供たちと鉛筆は親和性が高く、開発を決断。裁断くずを提供する我々をはじめ、炭化装置の会社、微粉砕する会社、芯を作る会社、鉛筆を作る会社の5社が参加し、約2年半掛けて開発、2023年に完成しました。鉛筆は2Bで、一本の芯に洋服の炭が20%入っています。研究の結果、これが最大限の割合で、黒く、テカリが少ないというのが特徴。製造方法の特許を取得し、『服の鉛筆』の商標登録もしています。
―2023年度の日本文具大賞「サステナブル部門賞」を受賞しました
これを機に営業マンによる学校への出前授業に力を入れています。24年度は約10校で、来年度からは全国に広げ、もっと増やしていく計画です。今、小学校4年生からSDGs(持続可能な開発目標)教育が始まっており、我々も4年生向け。子供たちは洋服から鉛筆の芯ができるのって興味を持ってくれ、最終的に鉛筆をプレゼントすると、本当に書けるって、びっくりします。受賞後、社内では意識が一段と高まりました。それまで取引がなかった業種からも声が掛かり、現在は富山県の開発機関と一緒に炭化技術を使った消臭剤、脱臭剤などの研究をしています。
JUKI製品がサポート
―リペアとリメイクの事業について
ウエアのロングライフに向けた取り組みという考え方はずっと持っていて、リペアはシームテープ張り機などを導入し、2009年からBtoB(企業間取引)で開始、2021年から本格化してきました。JUKIのダイレクトドライブ高速本縫い自動糸切りソーイングシステムや高速電子閂止めソーイングシステムなどを揃え、今年8月にはバッグ修理のため筒型1本針本縫い総合送り水平大釜ミシン『LS‐2342‐7』も採用しました。この部門は10人です。リペアはどういう風に分解したら最短で直せるか考えながら作業するので高い技術が必要です。だから一人で丸縫いができる技術者を配置しています。対象はウエアが圧倒的に多いんですが、バッグやテントなどもあり、年間だいたい7千個をリペアしています。12月中旬から三井アウトレットパーク北陸小矢部にリペアセンターを開設し、リペアカルチャーを発信できる場とする考えです。リメイクは製品染めや、ワッペンだけ付けるようなものまであります。また金沢文化服装学院の依頼でリメイクし、学校が製品を販売しています。