生産現場に『JUKI』を探る Vol.6
アパレル生産現場第5回
サニースタイル新庄工場
年明けの1月21日、JR・東京駅から朝9時24分の新幹線「つばさ109号」に乗り12時39分、山形県「新庄」駅に着いた。所要時間は3時間15分。雪道を車を走らせること10分足らずで今回の訪問先であるサニースタイル新庄工場に到着した。工場の内部に踏み入れた瞬間、目に飛び込んできたのは活気ある作業場風景。平均年齢は、現在の国内工場ではかなり若い部類に入る38歳。最近、とみにデザインや型のバリエーションが増えてきたレディスのボトムが得意アイテムで、感性のあるモノ作りに定評がある。この工場が満を持していたかのように、発売されて間もないJUKIの本縫自動玉縁縫機APW896を導入した。
新型本縫自動玉縁縫機を導入
デザイン・仕様の変化に対応
サニースタイルは1981(昭和56)年に東京都北区滝野川から新庄市に進出した。89年に現在地に移ってからでも20年。すっかり地元に溶け込んでいる。従業員数は85人。そのうち縫製は52人で、3ラインからなる。日産量の平均は約350。ロットは2300から5・600が中心だが、「バーバリー・ブルーレーベル」のスカートなどは2500枚というものもある。「バーバリーのパンツなど、少し内容の濃いものは、なかなか本数が上げられません。今はボトムと言っても、工程数が多いので、ジャケットと工程的にはそんなに変わりがない」と佐藤祐子企画部長。ここ数年ボトムの変化は顕著で、工程数も素材の種類も多くなった。そうした中、国産ならではのボトム縫製に挑戦しているのがサニースタイルである。
取引先は三陽商会がメーンで、その比率は約70%。ブランドは「バーバリーロンドン」と「バーバリー・ブルーレーベル」。現在は三陽商会以外に「ランバン」など三社の仕事を請け負っている。生産アイテムはレディスのボトムだが、一時期ドレスやコートも扱ったこともあり、状況によってはボトム以外も受注できる技術の幅も持ち合わせている。
ボトムではパンツとスカートがほぼ半々。しかし、「ボトムでパンツをやる工場が少ないので、どうしてもパンツをやって欲しいという依頼が多い」(佐藤部長)という。カジュアル系のパンツが多く、その中で玉縁仕様のポケットが増えている。以前は、基本的なものは前に斜めの切り替えのポケットで、後ろにフラップ付きのポケットというのがポピュラーな形だった。だが、「最近はカジュアル系が多く、前に玉縁、後も玉縁とか、前後とも自動機を使いたいというものが多い」(同)という。
こうした事情が、今回JUKIの本縫自動玉縁縫機APW-896を発売と同時に導入した背景にある。同社はこれまで16,7年前に入れた古い機種のAPW―240を現在もフルに使っており、「部品のあるうちは、ぎりぎり一杯ダメになるまで使おうということで大事に使ってきた」(同)。
新機種導入を決めた理由について東京本社の柳澤泰之常務は、「今使っている機械の部品供給が終わりになっては現場が混乱することと、デザインの多様化が進む中で、新機種のAPW―896は、ゲージ交換などが楽になったのがいちばんのメリット」と話す。
全体の一割あるかないかくらいだが、斜めポケットもあるし、片玉、両玉もある。今まで調整は社内の保全担当が行っていたが、新機種に比べると時間がかかっていた。
「両玉から片玉への切り替えには結構時間がかかり、混んでいる時は、皆さんに協力してもらって、お昼休みをずらしてもらったり、先行して貯金を作っておき、その時間を潰してもいいように逆算していくとか、いろいろやっていた」(佐藤部長)。また、前機種では、斜めも対応出来るが、「あらかじめ調整したものを選ぶだけで、すぐに角度を変えたりなどは出来なかった」(同)。こうしたことを解決してくれることへの期待が込められているのが、新機種のAPW896というわけである。
人材を育て技術力で勝負
「御社のセールスポイントは?」という質問に佐藤部長は「品質は安定していると、お墨付きを頂いています。あとは納期を守るようにしていることですかね」と控えめに答える。パンツでは、「はき込みの股繰り、シルエット、履きやすさを重視。企画もですが、縫製では引き延ばしにしても微妙な感覚が要求される。あとは股下のくせ取り。改まってクセ取りというようなものをしているわけではないですが、普通に割っているように見えても、クセ取りの基本を分かって割るのと、何も考えないでやっているのとでは、やはり違う」(同)。仕上げの時点で形を作ればいいと言う考えではなく、同社は中間でしっかりアイロンをかけることを徹底してやっている。「その辺は、長年、三陽さんに仕込まれてきたというのがあるかも」と佐藤部長。仕上げはドイツ製の機械を使って吹き上げでやっているが、オペレーターは敢えて入社して間もない若い女性を起用。感性重視のモノ作りを実感させられる場所の一つである。
柳澤常務は、「アパレルから要求される難易度がすごく上がっている。工程数も以前とは比較にならないくらい多くなっている。その中で、コストを合わせるためにも機械化や自動機導入が必要」と語る。自動機は玉縁以外に、ダーツシーマをフルに使っている。前カンのミシンも重要だ。ボトムでは、前カン付けが大変な箇所で、同社も以前は、まとめがうまくいかず、納期対応に困った時期があった。そこで機械付けに取り組んだのだが、慣れるまではセッティングに時間がかかった。「今は慣れて、付けられるところは徹底的に何でも付けていこうということで、ベルト以外のところでも機械で付けており、ほとんど手付けはしていない」(佐藤部長)のが現状。ボタン付けも、どうしても付けられない場所を除いては機械付けである。新庄市内にある外注は、前カン付けを機械でやるようになってからは、半分くらいで済むようになった。今は十二人くらいでまわしている。
同社は、中国人研修生を一昨年から六人ずつ受け入れ、現在二期生までで研修生が十二人いる。みんな優秀だ。しかし、地元から毎年新卒を4.5人くらい採用。「海外と競争していくためには、やはり技術力が勝負になる。人材を育てて、大事な部分は日本人できちっと技術を伝承していかなければという思いから」(同)である。
最近、アパレルのパタンナーの中には機械のことや素材のことが分からない人が増えている。同社の企画はCADを含めて7人で、現場から上がった人や、専門学校を出た人で構成。CADにいる人も現場の方から上がっているので、全体が分かってやっている。「工場から逆に、こういう素材だったら、こういうミシンを使った方が良いとか、どんどんパタンナーの方に情報を出していかないと、今は難しくなっている」(同)のが現実。「これからは、メーカーと出来るだけ対等な立場で仕事が出来るようになるのが理想。パターンも、自分のところでパターンを起こしてやれるような力を付けられれば良いと思っています」と佐藤部長は話す。東北の地に根を下ろし、常に前を向いて進む高感度の工場である。
JUKIからのお知らせ
新発売のAPW-896
APW-896はJUKI独自の多彩な新機能を搭載し、多様化する市場ニーズに対応して企画開発された本縫自動玉縁縫機(斜め・フラップ仕様)の新製品です。
APW-896は『市場ニーズの多様化/少ロット化に対応出来る実用性』が企画コンセプト、縫製仕様変更にともなう段取り替え時間の削減を考え、トータルな効率化を追求しています。
世界初の機能である「コーナーメス横方向切り込み位置の電子制御」は「コーナーメス左右個別昇降機構」との組合せで、『操作パネルによるコーナーメス切り込み位置微調整』を可能に致しました。従来縫製工場の保全係様が工具を使い 試し縫いを繰り返し行なっていたコーナーメスの調整が、オペレーター様でも簡単に大型カラー液晶タッチパネルの数値入力のみで微調整できるようになりました。数値は縫製パターン別に設定することもできます。さらに、頭部を倒さず釜軸位置調整が出来るなど、ゲージ交換時の調整を簡単に行える機構を採用しています。両玉・片玉の切替えもレバー操作で玉布定規を交換して、あとはパネル操作で大押さえの制御を切替えや大押さえ位置の微調整も行えるなど、段取り作業時間が飛躍的に短縮されました。
縫いに対しては斜めポケット縫製でも左右のバックタック長さ(運針)を揃える機能や、フラップ角度自動検知機能を装備し、高い玉縁縫い品質が得られます。
また当社環境方針のもと、本機でのエネルギー消費の削減に取組み消費電力設計された、優れた機種です(平均消費電力を60%削減、待機時の消費電力は90%削減)
APW-896は近年ますます多様化する市場要求に対応するべく企画/開発されたJUKIこだわりの斜め本縫い自動玉縁縫い自動機です。
皆様の縫製現場でご使用頂き生産性向上と品質向上のお役にたてることを期待しおります。
【コメント】APW-896プロダクトマネージメントチーム(PMT)