次世代のモノ作りに挑戦 第15回
株式会社イワサキ 代表取締役社長 安達 正敏氏
機械と技術力の融合へ教育訓練に力
大阪府東大阪市にあるイワサキは、優れた技術力・人材力で高品位のレディス製品を生み出す老舗企業として有名です。創業は1947年。「服を作る前に人を作る」のコンセプトのもと、50年前の1970年(昭和45年)、洋裁の部では唯一の大阪府知事認定の単独事業内職業訓練校を開設。以来、多くの国家検定洋裁技能士を輩出してきました。こうした人材力・技術力をベースに機械化にも早くから取り組み、ハード(機械)とソフト(技術力)の融合で他にない製品を生み出しています。「うちはJUKIのモデル工場みたいなものです」と口を揃える岩崎靖璋会長と安達正敏社長に、最近のトピックスを交えて国内縫製工場の今後の方向などについてお話をうかがいました。
ー新型コロナ禍のなか、現状はいかがですか?
岩崎: 世の中でこういうことが起こるとは全く考えていませんでした。当然のことながら、うちも決して楽ではありません。コロナが収束した後には、間違いなく業界の地図も変わっているでしょう。
安達: 当社は現在、社員が約80人。一時に比べると人数は減っていますが、都市型の工場としては大手だと思います。これまで縫製してきた通常の服が20%ぐらいに落ち込んだ中で、日本アパレルソーイング工業組合連合会(アパレル工連)経由で医療用ガウンの生産を5月から始め、1カ月ぐらい中断した後、11月末からまた最終の生産を始めています。これ以外に4月から始めた自社製マスクが好評です。2枚1組300円の布製マスクを工場直販で売り出したところ、全く宣伝もしていないのに口コミで評判になり、これまでに7万枚以上を売りました。少しは社会貢献になっているかなと思っています。
ー”本業”であるアパレルからの受注では何か変化がありますか?
安達: いいものを売らないといけない、というアパレルさんが多いですね。そのため弊社に依頼が来る。工場としても、ますます競争が厳しくなっていますので、いかに我々しか出来ないものを作るかを考える必要があります。
岩崎: そうした中で安達君が考案したのが「INCL縫製」という特許製法です。
型崩れしない突き合わせ
ーそれはどういうものですか。
安達: INCLはIN CORD LOCKの略で、生地と生地を突き合わせ、その間にコードを挟み込んだ状態で千鳥掛けする縫製技術です。突き合わせ縫製では縫い代が取れない分、強度に不足が生じます。そこにコードを入れることによって強度を増すことが出来ます。また、コードを入れる時の張力を調整することで伸び止め効果もあり、縫い代がない突き合わせ縫製では商品が型崩れを起こすという問題を防ぐことが可能になりました。さらに、生地端にもコードを添わせることが出来るので、従来裁ち切り始末だったところでも生地ほつれなく始末が出来、1枚仕立ての商品を作ることが可能になりました。コードは編み限定ではありませんが、自社の機械を使って自在に出来るので、糸の強度を調整したり、編み目であらゆる色が無限に作れるなどデザイン的にも可能性があります。
ーアパレルへの提案は?
安達: すでに行っており、反響はすごいです。あるアパレルさんでは300枚が1週間で完売になり、追加オーダーを3回なさいました。また、我々が作ったサンプルを即、採用されたアパレルさんもあります。こういう縫い方が出来ますよ、という提案を形にして紹介していますが、あとはデザイナーさんがアイデアを膨らませて頂き、素材とデザインの組み合わせでいいものを目指して欲しいと思います。
ーミシンは千鳥ミシンですね。
安達: JUKIさんのミシンを使っています。ただ、ミシンを入れれば何処でも出来るわけではありません。本当に難しいのです。モノになるまでかなり苦労しました。
ー機械と技術の組み合わせですね。創業以来の技術の蓄積が生きています。
岩崎: 私たちの業界は残念ながら付加価値が低いのが現実です。そういう意味では機械化は必須です。現場に入ってもらえばわかりますが、うちはほとんどがJUKIのミシンです。本縫いミシンはもちろんボタン穴かがり、ボタン付け、ステッチミシンなどあらゆるJUKIのミシンが揃っています。最新の本縫いフルデジタルの「DDL‐9000CF」も導入。最新の機種なので使い勝手を試しているところですが、糸調整が細かくできたり、押さえ圧も調節でき、送りも水平にきっちり送れるなど進化した機能を実感しています。そして、そうしたミシンを使いこなすためにも人を育てることが大事なのです。創業52年、『服を作る前に人を作る』というコンセプトでやってきました。お陰で人の募集で困ることは一度もありません。
安達: 社員の技能訓練向上のため大阪府知事認定の単独事業内職業訓練校(洋裁科)を開設して以来51年目。「岩崎洋裁訓練道場」と銘打って、しっかり社内教育を行っています。現在、訓練校で訓練を受け、国家検定資格を得た人は累計で2級735人、1級150人、特級2人。訓練指導員は74人にのぼっています。こうした教育・訓練の積み重ねが、会長が話した人材の確保にもつながっていて、今年の新入社員は13人でしたが、応募者はその3倍もありました。
モノ作りの立場で提案を
ーこれからの方向や課題は?
安達: これから縫製工場を取り巻く情勢はますます厳しくなると見ています。何か自分たちで主導権を握れるものがないと勝負出来ない。INCL縫製の開発はそうしたねらいからでした。INCLが一つのジャンルになるのではないかと、手応えを感じています。モノ作りの立場から提案していく。そのため人を育てる。この基本を忘れずにやっていきます。
岩崎: これまでの経験から製販は別だと思います。昔から『商は商たらん、工は工たらん』と言われてきましたが、その通りです。今はどうせ買うならいいものを、という人が多くなっています。売れるものを工場の立場で作る。機械化は絶対に必要だし、これまでも可能な限り機械化を図ってきました。しかし、服は全てを自動では出来ません。やはり機械と技術、機械と人の組み合わせが重要です。人の教育は一朝一夕では出来ません。イワサキの人材育成の歴史を継続していきたいと思っています。