次世代のモノ作りに挑戦 第32回
株式会社アリエ 代表取締役社長 河村 厚志氏
“一点突破”で瀕死の会社を建て直す
高い生産性を支える一寸法師の戦法
「大阪に生産性の高い工場がある」との噂を聞き、辿り着いたのが今回取り上げた大阪府堺市にあるアリエです。アパレルの海外生産シフトで国内の生産スペースが激減する中、とりわけ都市周辺の工場は厳しく、アリエも例外ではありませんでした。JUKIとのコラボ企画としては異例ですが、国内工場のサバイバル事例としては貴重なレポートになりました。
―アリエとリビエールの二つの会社があります
リビエールは平成三年に会長(河村幸一氏)がつくりました。当時は実習生の受け皿として作ったようです。実習生も数を減らしているので、僕が社長になってからはリビエールの方はサポーターの商品をメインに、レディスのパンツをアリエの下請けとしてやっています。

パンツで高い生産性を誇る大阪府堺市にあるアリエの縫製現場
―アリエの現状は
ブラウスとパンツとワンピースをやっていますが、ほとんどパンツです。元々はジャケット工場でしたが、これだけ海外シフトが進み競争が激しくなり大阪では加工賃が合わなくなりました。仕事を確保することを第一に、自社の強みと顧客ニーズが一致すれば仕事が確保しやすいと考えました。今から七、八年前はパンツをやるところがないということで、とりあえず問題が一つに減るのであればやってみようと。過去債務超過になったこともありまして、先ず閑散期をなんとかしようと思いました。季節に左右されない商品としてサポーターをリビエールでやり、それが軌道に乗ったので、アパレルを立て直すためにいちばんニーズのあるパンツのラインを立ち上げました。アリエがブラウス、リビエールがパンツでスタートしました。次にやったのはアパレルの取引先を絞ること。2018年頃ですが、資本力もあり、ブランド力もある『T』一つに絞りました。2020年には『T』100%になりました。縫製工場は絶対的なニーズとして、5Sの改善とかが王道のやり方だったと思いますが、当時資金のない中で生き残るために、すぐ仕事をもらうことが一番でした。顧客のニーズが何かをまず考え、パンツとブラウスに絞りました。一、二週間でモノ作りが出来るようにして、パンツとブラウスというセットアップでやることで他の工場にない特長になり、やってほしいという要望が来て人気が出てきました。技術力とか工場の改善は追いついていませんでしたが、通常の工場とは逆に、あとからそれらを改善していきました。おかげさまで一億円位だった売り上げも三億円になり、従業員も二倍くらいに増えた。そして大手SPAが『T』の親会社なので、『T』と取引をするのに大手SPAのグローバル監査と呼ばれるサステイナビリティーの許可がいる。監査など指導を受けて、消防法の件、人権の件などを整備していくうちに企業に近づき、信頼を置いてもらえるようになり仕事も増えました。パンツとブラウスに絞り、クイックに絞り、お客さんも一社に絞り、絞りに絞って一点突破でやってきました。
―逆転の発想ですね?
王道のやり方ではできませんでした。どうしたら良いかというと、一点突破しかなかった。一寸法師の戦略です。一点はどこか考えられないと終わってしまう。結果的に逆転の発想になりました。
―取引先を『T』にしたのは?
LTのブランドは二つだけで百億円売っている。看板ブランドの『T』で八十店舗くらいあり、非常に売上規模が大きい。その販売形態は、展示会を年に四回して、ほとんどが直営店販売です。初回生産も計画数も、半分か四割くらい作って、後の半分は追加で回す。在庫リスクと販売機会ロスを無くすための戦略です。店舗数が多いからロットが何千本と大きい。資本もしっかりしている。生産管理表を顧客と共有して顧客が自分のラインのように順番を変えたり出来る体制にまでもっていく。うちはSKUのレベルまでやる。『来週までにこの品番のこの色が欲しい』ということまで対応できるようにした。生地の在庫も付属品の在庫も積んでもらって、発注が来たら一日で服に出来る体制にして、直送もする。そうなったら地方の工場より三日くらい早くなる。品質もクリアしながらやっていったらだんだん注文が増えてきて当然、向こうも手放せない。強みとニーズが一致した状態で、お陰様で『T』とは年間五万着ぐらいできるようになりました。

活気に満ちたアリエの作業現場 ミシンは全てJUKI
「苦手のものは受けない」が基本
―生産性について
生産性を高めようと思ったら、一番簡単なのは、いろいろやらないことです。苦手なものは受けない、これが基本です。強みがあると要望が通ることになります。うちは苦手なものは基本やらないようにしていますけど、数が今後あるということであれば、いったん生産性が下がっても挑戦して、採算に乗るようにするということはやります。引き出しを増やすということですね。もう一つ、生産性は加工賃によって変わる。生産性は、ひとりいくら稼ぐか、ということです。それを稼げる加工賃をもらわないといけません。

ものづくり補助金を活用して導入したJUKIの玉縁縫い自動機
―今後の課題は?
百年先に続けるように志を持たないとダメだと思っています。百年先を考えるなら理念が大事。従業員の物心両面の幸せを追求しようということを掲げてやっていきます。後継者問題は自然と解消されるべき問題です。例えば、うちがルイ・ヴィトンをやっていれば跡継ぎをやりたい人は山ほどいる。長期的な目標は本社移転と社名変更です。本社のイメージは一階がカフェ兼商談スペース、二階がアトリエ、三階が学校。従業員の物心両面の幸福の追求がなされ、後継者問題も解消され、企業として良い会社になっていくのではないかと思っています。間もなく企画室がスタートします。営業と特級技能士とパタンナーの三人がリーダーとなって様々なお客様に提案し、OEM事業をやっていきます。工場目線で良いモノ作りをして、対等の関係でやっていきたいと思っています。