生産現場に『JUKI』を探る Vol.5
アパレル生産現場第4回
サンケイ川村化学工業
オートバイのドライバーやオートレースのレーサーなどに欠かせないのがヘルメット。安全性、かぶり心地などヘルメットに求められる機能と性能は極めて高度なものが求められる。この分野で日本のARAIとSHOEIの二大メーカーは世界的にも知名度が高い。今回の『生産現場にJUKIを探る』では、ヘルメットの内装の縫製を行っているサンケイ川村化学工業(埼玉県児玉郡神川町、川村眞一社長)を紹介する。
ヘルメットの内装縫製
サンケイ川村化学工業は、大日本インキ化学工業(DIC)で営業課長をしていた川村知三会長が退職後、昭和43年(1968年)に創業した。DICは当時、ヘルメット事業をやっており、その関係でDICのヘルメットの内装を手伝うようになったのが始まりという。DICとは約12年続いたが、DICがヘルメットから撤退したのに伴い、一定の期間をおいて国内二大メーカーの一社の二輪、四輪の乗車用内装を手がけ、現在に至っている。
ヘルメットの内装で裁断から縫製まで一貫生産している工場は少なく、国内の工場としてQRにも対応できるというのが同社の最大のセールスポイントだ。従業員は二十一人。日産五百個から六百個を生産する。川村社長は「我々は加工屋。ある程度相談を受けたらアイデアをポロッと出すということはあるが、あくまでも与えられたものを、与えられたように、与えられた以上に作るというのが我々の仕事」と話す。
メーカーから設計図が来るが、材料は支給ではなく、売りの買い。資材倉庫にはウレタンや様々な機能素材などが積まれている。
裁断は二台のダイカットマシンで精密裁断し、縫製現場に送られる。そこで活躍しているのがJUKIの厚物用本縫い上下送り糸切りミシンや筒型ポストミシン、ロックミシンなどである。
ヘルメット内装の縫製は一般の衣服と比べて別の難しさがある。「内側から形に仕上げるため普通の縫製と違う。ただ縫えばよいというものではない。洋服と逆の縫い方が必要」(川村会長)、「難しいのは、厚い物と薄い物が全部混在していること。いろんな素材の組み合わせなので、その辺をミシンで縫うバランスが難しい」(川村社長)。素材に合わせてミシンを全て揃えるというわけにはいかないため、汎用性に優れているJUKIの上下送り糸切りDU-141H-7を多用。JUKIとのつき合いはポストミシン以来で、約十五年になる。
縫製は陶芸にも似て
ヘルメット内装の縫製と一般衣料の縫製。先に見たような違いがあるものの、縫製一般としての共通性は当然ある。設計でCADが当たり前の現在。川村社長から含蓄のある話が聞けた。
ーメーカーからの指示は、 服の場合は見かけの形だけで終わりですが、自動車系の場合は、立面図、正面図、側面図が来ます。こちらも?
「いや、もっとファジーです。アパレルもそうだが、今はCADが浸透し、ぴったり作り過ぎて、縫えないものが出てしまう。昔は実際に縫って型起こしをしていたのが、今はCADで全て寸法でやってしまうので絶対に合わない。CADからいかに曖昧さを取り入れていくか。縫製というのは、逆に曖昧さだと思う。縫製は陶芸みたいなもの。こういう形と言ったら、これに似たようなものを作ることが縫製。今の電子部品などはプラモデル。巧い下手がどこで問われるかというと、セメダインがはみ出ているか、はみ出ていないか。我々は陶芸なので、これと言ったら、それにいかに近づけていくかが一番難しい。そういう意味で縫製というのは、アパレルでもどこでもそうだが、縫い子さんの想像力だと思う。その辺を、これからの時代はどうしていったらいいか。確かにみんなプラモデルを作るのは巧くなったし、手も早い。だが、その曖昧さの中でいかにきれいに作るかというのは無限大。その辺がこれからの縫製の難しいところだと思う」
ー縫製に対して陶芸や想像力という言葉を言われたのは非常に新鮮でした。
「何でもそうだと思う。いくら自動化されても、最終的には人の手を要する。結局はその曖昧さをどうやって埋めるか。うちは年齢的にミドルクラスだが、これから若い人を考えた時にはやや心配な面がある。世の中を見ていると、あまりにも短絡的に物事を見る。昔ながらの微妙な人間関係とかが非常にクールになってしまうと、物の考え方もクールになる。突き詰めることをせず、言われたことはやるけど、そこから先は言われていない、と官僚みたいな答弁を平気でやる(笑い)。結局、縫製は見て覚えるか、ここから先自分がどうやるのか、もっときれいなものが縫えるのか、自分の中で考えていかないと出来ない分野。これから若い世代が入った時、どう指導するのか、非常に難しい時期に入るのではという思いがある」
ヘルメットの業界は、かつての三ナイ運動(乗らない、乗せない、取らせない)で高校生が二輪社の免許を取らなくなって以降、国内市場はかなり厳しくなった。その後、ヘルメットメーカーは世界への輸出を増やし、欧米でも高いシェアを持っている。使い心地などを評価するアメリカの顧客満足度でトップに評価されるのは日本メーカーである。F1レースでも日本のヘルメットが圧倒的。日本の化学力、工業力がヘルメットには凝縮されていると言っても過言ではない。そうした中で、内装で裏側を支えているのがサンケイ川村化学工業だ。
種類が多く、それ故に非常にクイックレスポンスを要求される。ひどいときは、朝電話があって、一個間に合わないと言われ、午後に飛んでいく場合もあるという。「アパレルと違い、結局うちは部品屋。相手の工場を停められない。一個でもないと、向こうは停まってしまう場合がある。いかに早く対応するかが僕らの最大の役割」と話す川村社長。モノ作りでメーカーと一体になって「かぶり心地」といった最大のポイントに挑戦しながら、国内工場の強みを発揮してQRを実現する―アパレルの工場と同じ課題に向き合い、堅実に成果を上げているサンケイ川村化学工業である。
JUKIからのお知らせ
厚物機器販売を強化
専任の課で顧客対応
厚物機器販売体制の更なる強化目的で、8月1日付けで営業本部に厚物機器課が設置(ニット・厚物機器課から独立)されました。厚物機器課が担当する商品は厚物用ミシンとAMSシリーズ(電子サイクルマシン)で、カバン・自動車関係(カーシート、エアーバッグ、シートベルト他)及びスポーツシューズ等の製造工場さんが主なお客様になります。
当課の主な業務は販売促進ですが、お客様に当社商品を安心してお使い頂けますよう以下2点にも取組んでおります。
一つ目は納期対応です。お客様の希望納期に答えられるよう常に営業と生産の情報をお互い共有しております。
二つ目は新商品企画です。当課からPMT活動に参画し開発・工場と連携強化しお客様の欲しい商品が提供できるよう取組んでおります。
* PMT活動:プロダクトマネジメントチーム
この11月に当課もPMT活動で企画・開発に参画したLU2220N-7が販売開始されました。このミシンは自動車シートや家具工場で評価をいただいておりますLU2212N-7に上糸巻込み装置(縫い始めの上糸を確実に素材の裏側に引き込む)と残短糸切り機構(終りの糸残り長さが5mm)を追加した商品です。これにより縫始めと縫終りの糸摘み作業を軽減し、自動車シート縫製等の生産性向上・品質向上に大きく貢献致します。
営業本部営業推進部厚物機器課
白井新二
TEL:03-3480-2357