生産現場に『JUKI』を探る Vol.23
アパレル生産現場第22回
尾崎商事株式会社「米子工場」
国内工場の中でも比較的堅調に操業を続けてきたと言われる学生服関係の縫製工場。しかし、その陰には日々の改善など地道な努力が続けられてきた。今回、紹介する尾崎商事米子工場は2008年11月に訪問してから3年も経っていないが、そのわずかな間にもいくつかの変化を見い出すことができた。自動化、半自動化へ向けての取り組みを改めて進めており、生産性アップや省力化だけでなく、「誰がやっても絶対に間違いが起こらないモノ作り」を目標に掲げるなど、先進国日本の縫製工場ならではのきめ細かい、高度な機械化・工業化が進展している。縫製機械メーカーにとっても、刺激的な開発テーマを提供してくれる工場である。
厳しい条件でも自動化追求
尾崎商事(本社岡山、尾崎茂社長)は、創業が1854年(安政元年)のスクール衣料最大手のアパレルメーカー。米子工場はその県外第1号直営工場として1964年(昭和39年)に操業開始した。尾崎商事の生産ネットワークは、国内に米子工場のほか、倉敷工場(岡山県倉敷市)、都城工場(宮崎県)、志布志工場(鹿児島県)の4つの基幹工場があり、さらに4基幹工場の周辺に子会社の衛星工場を配している。
國重祐一工場長に人員など現況を聞いたところ、前回訪問時と大きくは変わっていなかった。「増やすつもりはないが、人員も出来るだけ現状維持で来た」と國重工場長。現在、従業員数は米子工場が240人(前回230人)、衛星工場が合わせて280人(同数)。米子工場グループでは合計520人で、わずかだが増えている。衛星工場のうち島根第1工場、同第2工場が1つになり、衛星工場が6つから5つになった。
米子工場は尾崎生産グループでは唯一の布帛工場で、生産量は布帛シャツ・ブラウスを年間約50万枚。衛星工場では主に白物のニット体育衣料を年間約220万枚生産している。
以上のように、生産キャパとしてはほぼ現状維持を続けているが、工場を取り巻く環境は確実に変化している。商品の多様化、小ロット化、多頻度化、短納期化はますます進んでいるのだ。
國重工場長によると、「年間を通しての購入着数はあまり変化してないと思うが、春の購入時には買い控え傾向で取りあえずカッターシャツを1枚買い、あとで必要になって追加するという感じ。また、少子化でロット数は毎年減っている」。米子工場は布帛シャツの工場ということで、かつては自動機の導入、工場独自の半自動機の開発を積極的に進めてきた。しかし、その後、商品の多様化、小ロット化、多頻度化、短納期化が進み、自動機の使用が減っていった。今はポケットセッター、ボタン穴かがりインデキサー、ボタン付け、カフス地縫い自動機ぐらいである。ボタン穴かがりインデキサーはこのほど、JUKIの新製品である高速電子穴かがりインデキサーAC‐172N‐1790を導入。これでJUKIの穴かがりインデキサーは3台になった。
「自動機が使えない」理由は市場や営業サイドの事情が大きい。学生服は最終納入先である学校丸抱えと同業他社との併売の両方があり、特に後者の場合は差別化のため更にロットが小さくなる傾向がある。「売る側が、学校の差別化ということで、いろいろなデザイン・仕様のものを作る。工場サイドはパターンと素材の集約化をお願いするのだが、営業は競争に勝ちたいから、逆に増えていった」と國重工場長は苦笑いする。
例えば、襟は何十パターンもある。かつては襟地縫いの自動機を使っていたが、種類が増え、使い勝手が悪くなり、今は使っていない。調整に時間がかかるとか、パターンが変わるとミシンの調子が悪くなり、かえってロスが発生するという。
間違えないモノ作り
自動化、半自動化の追求は形を変えて続いている。「学生服という性格上、シーズンとシーズンオフがあり、シーズンにはどうしても残業が発生する。従って、残業時間をいかに少なくするかを考えながら、生産性を上げて行きたい」と國重工場長は話す。特に注目されるのは、工場独自での半自動機の開発と作業のオーバーラップ化への取り組み。2工程を1人のオペレーターがオーバーラップして作業するなど、多能工化も質的な進化を遂げている。衛星工場を含めて仕掛かりを極力減らし、オーバーラップできる作業へと改善を進めている。
最近、開発を進めているのは「誰がやっても絶対に間違いが起こらないモノ作り」への挑戦。「人間だから間違いはつきもの。製造業では慣れは非常に大事なことだが、一方で、慣れた頃に思い込みの作業とか"だろう運転"で間違いを犯す」(國重工場長)。製品だから、付いているべき物が抜けていたりすると、工場にとって命取りになることがある。パーツが付いてなかったり、あるいは付け過ぎになりそうな時に機械が自動的に止まったり、警告音を出したりする装置の開発を行った。
こうした取り組みは、「検査でハネれば良い」とか、「クレームが出たら、取り替えれば良い」という発想からは生まれない。製造工程の中で品質の作り込みを行うという思想から来ているのだ。パッカリング防止のため、ミシンと送りが同調して動く改善も最近、完成した。
工場内での改善や開発を続けながら、機械メーカーとの連携の重要性も強調する。特に、アパレルの国内生産が縮小した今日、存続のためには不可欠である。
機械メーカーとも連携強化
機械メーカーに対する要望の第一は、変化に対応した自動機、半自動機の開発。「型を作るのに時間と労力がかかるので、多少パターンが変わってもその通りに縫ってくれる機械」(同)である。もう1つは、「生産性、省力化だけでなく、間違いのないモノ作りが出来る設備」(同)である。
本縫いミシンと自動機、専用機のほとんどがJUKIで占める尾崎商事米子工場。「JUKIさんともお互いにコミュニケーションを取りながら、改善へ向けて協力して行きたい」と國重工場長。
前回、詳しく紹介したように、同工場は従来の1人が1工程を受け持つ作業から、1人が3工程を受け持ち、1工程を3人が出来るという「多能工化・3×3」の目標に挑戦し、多能工化を図ってきた。その基礎になっているのが、長年にわたる社員教育、とりわけ技能教育と小集団活動(QCサークル)である。工場の技能者の層は厚い。技能検定の国家試験(布帛縫製技能検定・ワイシャツ製造作業)の1級・2級合格者は現在、約80人、設備技能士の合格者と合わせて約90人が在籍している。このほか品質管理士(TES)が6人いる。
前回訪問時に紹介した「現代の名工」(卓越技能者)の吉良美子さんは定年になったが、その後も再雇用され、現在は技術指導職としてリーダー、サブリーダーの指導を行うほか、国内外の関連工場に元気に足を運んでおられるとのこと。他の製造業でも退職年齢に達した技術者を再雇用し、技能・技術の伝承に力を入れる企業が増えており、アパレル業界における事例として触れた。人材育成こそが製造業においても生命線であることを教えてくれる工場である。
JUKIから「この一台」
正確で安定したボタン穴かがりインデキサー
「AC-172N-1790」
プリセット機構で高い生産性
AC-172N-1790は高い生産性と、正確で安定した前立穴かがり品質を実現した次世代の新型高速電子ボタン穴かがりインデキサーです。
ワイシャツ等の「前立て部ボタン穴かがり工程」を、身頃の送り(フィード)から身頃の重ね(スタッキング)まで、このマシンが自動的に行います。
身頃に連続したボタン穴かがりを行う「前立て部ボタン穴かがり工程」に、一般的なボタン穴かがりインデキサーを使用すると、スタートスイッチを押した後のミシン稼動中、オペレーターには待ち時間が発生します。「プリセット機構」を標準装備しているAC-172Nは、ミシン稼動中に次の身頃をセット出来るので、作業効率が上がります。複数台(2台または3台)を掛け持ちすることも可能なので、飛躍的な生産性向上が図れ、1人当たりの生産効率が高まります。(生産性向上)
身頃セット後に、スタートスイッチを押すだけなので、新人オペレーターであっても、生産性向上と安定した高品質縫製が可能です。(脱技能化)
ミシンは、ダイレクトドライブモーター仕様の電子ボタン穴かがりミシンLBH-1790を搭載しています。縫製速度の立ち上がり・下がりが速く、アクティブテンション(電子糸調子機構)を採用していますので、緻密な針糸張力設定も可能です。そして下縫い機能(伸縮性のある素材対応)・二重縫い等も操作パネルでボタン穴毎に設定できます。
押え上げはパルスモーター駆動なので、押えが上がる高さの設定が可能です。身頃の厚みに合わせた必要最小限の押え上げ高さで穴かがりができます。生産性及び品質が向上します。縫製データの設定変更が簡単で、婦人物⇔紳士物の切替え、ボタン付け身頃と穴かがり身頃を交互にスタックするペアスタッキング機能等、それらも操作パネルで設定できます。また、縫製品の油汚れ防止のために、面部のドライ化、釜部へのきれいな油の微量給油機構を採用しています。新型の糸切り機構で、下糸残り長さを短くし、糸摘み工程を不要としつつ、縫い終わりの止め縫い機能によりほつれる心配もありません。
前機種であるACF-172-1790の機能を引き継ぎ、さらに発展させたAC-172N-1790は、人手不足と生産コストが高騰する中、値頃な価格での高い品質と生産性を求める現在の市場の要求に対応すべく企画・開発された自動機の1つです。
これからもJUKIは生産性向上・品質向上を実現出来る省力機・自動機を提案していきます。
【コメント】工業用ミシン事業部営業統括部自動機チーム