生産現場に『JUKI』を探る Vol.16
アパレル生産現場第15回
福岡ワコール縫製
「世の中、価格優先の動きになっていますが、この工場は日本人100%で、品質に拘りながらモノ作りをしており、メード・イン・ジャパンの最たるものです」-。ワコール「ウィング」ブランドのファンデーション関係を、試作・技術検討から量産まで一貫して手がける福岡ワコール縫製(福岡県久留米市田主丸町、立木陽一社長)を訪れた。JUKIの鳥の巣防止ミシンや油汚れを防ぐドライタイプの導入など、品質と時間短縮による生産性向上へ向けた日々の努力をベースに、試作・技術検討の段階のみならず量産から得られるノウハウを京都本社にフィードバックし次の企画に生かす。「日本で残る工場」の在り方の一つのモデルを提供している。
ワコール「ウィング」の基幹工場
福岡県久留米市の中心部から筑後川沿いに車を走らせること約30分。行く手にワコールのマークが入った建物が見えてくる。
会社設立は1976年。ワコールの100%出資で、操業は77年4月である。従業員は現在、130人。ラインは、ファンデーションのブラジャーが3ラインとパンツ、ガードルが2ライン。昨年の実績は、ブラジャーが50万枚、パンツ、ガードルを合わせて約23万枚。昨年はブラジャーが4ラインだったが、今年に入って、1ラインをパンツ、ガードルに切り替えた。今年の目標は、ブラジャーが若干減って約40万枚弱、パンツ、ガードルは倍増の46万枚の計画。
福岡ワコール縫製の特徴は、ウィングブランドの、特にファンデーション-ブラジャー、パンツ、ガードル、ボディスーツのアイテムの試作・検討機能を有していること。新製品の検討・開発段階では、縫製要領、あるいは仕様、ミシン等々の技術的な部分についても、当社と本社の企画部門との調整によって、製品の仕様が決まっていく。工場の性格としては、試作検討機能があって、そのうちの一部の商品が実際に量産品として当社に発注が来るという形である。 ワコールのブラジャー、ガードルなどファンデーションを縫う直営の工場は、長崎にある九州ワコール製造、福岡ワコール縫製、宮崎ワコール縫製の九州地区にある3工場に集中。その中で福岡ワコール縫製は、ウィングブランドの基幹工場の役目を担っている。主な仕様決めと全体の統括は京都本社の技術生産本部が行うが、量産のノウハウの部分、技術的なディテールは全て当工場が担当している。
海外についても、特にウィングの商品を生産するベトナムあるいは大連ワコールについては、スタートの検討も福岡でやっている。また、仮に同じ商品が流れている場合は、本社経由でいろんな情報のやり取りをして問題解決を図る。
試作・技術検討と量産の機能
本社との連携で直営の使命遂行
試作・検討機能では、7人から成る専属の試作班があり、本社と企画上のやり取りを行う。一方で量産機能を持つプラスの役割では、「試作検討で気づかなかったことが、量産で問題として出て来ることも多いので、そういう経験を積んだことによるノウハウが我々の一番の財産」と立木社長。試作検討は1枚、2枚、あるいは数10枚までの検討だから、そこで読み込めない問題を現場で問題解決していく。それをフィードバックすることにより、次の企画に生かせる。「そのことが現場に求められている、現場で必要な技術ノウハウだし、会社全体にとっても、メーカーとしての機能はそういうところから出て来る。その経験則を生かせるようにするのが我々の使命」と言う。
品質と生産効率を上げるための日々の改善努力。「ここをあと1秒、2秒短縮するためにどうするかというところで、例えばJUKIさんの鳥の巣防止ミシンだったら、処理する時間を減らせる。それで1秒、2秒短縮でき、効果が出る。そうした機械でやるものと、あとは作業のやり方を改善して時間短縮をしたり、品質を改善したり、ということを毎日毎日、細かいことだがやっている。毎日の積み重ねが一番の強み」と立木社長。
設備はミシンが296台。そのうち本縫い一本針が85台で、他に千鳥、二本針、平、オーバーロック、閂止めなど多機種にわたる。本縫い一本針の中で、鳥の巣防止が15台稼働している。最初に入れたのは1998年でDDL-5556タイプ。昨年、新タイプのDDL-9000A-DSを導入した。
鳥の巣防止を最初に入れた目的の一つは、ムダをなくし、生産効率を高めるため。ブラジャーのカップの部分などは、必ず糸残りの後処理をしなくてはいけないので、その後処理の時間を短縮することが出来る。近藤浩二生産部縫製課長は、「1日500人分縫うとしたら、左右あるので1000個。1個当たり2秒短縮しても2000秒。そこで2、30分の時間短縮が出る。毎日の積み重ねで、1カ月にしたら、相当な時間短縮になる。一方、品質面では、鳥の巣防止の機能が付いた機械で作るとハサミを使わなくて済む。ハサミで傷をつけることがなくなり品質面で寄与する。 新タイプはフトコロも広くて非常に使いやすくなっている。タイプもドライタイプということで、オイルを使わないので、品質面で汚れ、商品の染み付きを無くせる」と説明する。
「当社の扱い製品は素材的に真っ白な商品を作ったりするので、小さいシミでもすごく気になる。極力油を少なくという考えで、今後は新しいドライタイプに変えていく予定」(立木社長)という。既に千鳥関係も一部ドライに切り替えている。
今や、自家工場を持っているアパレルは国内でも少ない。「多分それは弊社の武器になる。作ろうと思っても多分作れない。我々はそれを、どこまでうまく持ちこたえられるか。世の中はローコスト商品ばかりで、これに逆らうわけだから、これはこれで厳しいが、日本人の従業員で工場の経営をちゃんと成り立たせる努力をしている。使命感として残していかないと、大げさかも知れないが、アパレルという産業自体が壊滅状態になる。コストが安いモノも作れる方がいいだろうし、それは海外で作ればいい。ただ、こだわりを持って、最先端技術で開発をしていく部分も必要。大元である研究開発とか技術検討は日本でやっていかないと。モノを作るということに関してのある種のノウハウや伝統を持たないと、そこで生き残っていくのは難しい。逆にメード・イン・ジャパンをもっとPRすれば、差別化は出来ると思う」-立木社長は力強く語った。
JUKIから「この一台」
鳥の巣防止で品質、生産性を向上
ダイレクトドライブ高速本縫自動糸切りミシン[鳥の巣防止仕様]
DDL-9000A-DS/PBN
ダイレクトドライブ高速本縫自動糸切りミシン[鳥の巣防止仕様]DDL-9000A-DS/PBNは、糸切ミシンにつきものの「縫い始めの鳥の巣」を防止、両刃可動回転メスの採用により「縫終わりの糸切量」も四㍉以下と短くなったダイレクトドライブ高速自動糸切ミシンDDL-9000Aシリーズの鳥の巣防止機種です。
DDL-9000Aベースのため、従来機DDL-5556-7(一九九二年発売開始)よりフトコロ寸法が拡大され、作業性が向上、またダイレクトドライブ化により騒音、振動も低減、省エネ化もされています。さらにドライ仕様のため、縫製品の油汚れをシャットアウトできます。
特長として、
- JUKI独自のエアー+ボール式クランプで上糸を保持したまま縫い始めますので、生地裏に鳥の巣(糸のからまり)が残らない高品質な縫いを実現します。
- 糸切り後、ワイパーで払った上糸をエアーで吸い込み、ボールでつかむクランプ方式を採用していますから、糸の種類や番手が変わっても糸把持の調整を行う必要がなく、確実な糸つかみを実現します。
- 上糸切りに使用するメスは自由押えに内蔵していますので素材を傷めません。メスは信頼性と耐久性に優れたセラミックメスを採用しています。
- 両刃可動の回転メスを採用し、針落ち真下での糸切りが可能となり、糸残り量が平均四㍉以下と短くなりました。(オプションにより更に残短仕様に変更できます)
- 送り軌跡・機構の改善により、布端の食い付き性、段部の乗越え性(送り詰りの解消)、低押え圧縫製での送り力の向上を実現しました。また、逆送り軌跡の改善により、薄物の布端からの縫製(縫始めの返し縫い)でのピッチ詰りが解消しました。
- 可縫性を拡大するために適正締まり率の範囲を広げ、素材対応力を向上し、天秤軌跡、糸道経路、針棒糸掛けの変更により、縫品質の向上を実現しています。
同様に千鳥ミシンの「鳥の巣防止」で、LZ-2290A-SS-7-CB(ダイレクトドライブ高速電子本縫千鳥縫自動糸切りミシン)もあり、福岡ワコール縫製様でもお使いです。また、鳥の巣防止機能に加え、布ズレも防止する機能を持つ<布ズレ・鳥の巣防止仕様>や完全無給油のドライヘッドタイプもラインナップしています。
【コメント】工業用ミシン事業部商品企画部