次世代のモノ作りに挑戦 第10回
株式会社オーダー・オブ・メリット・プランニング(OMP) 水原事業所 工場長 井田 勝朗氏

ODM(相手先ブランドによる設計・生産)・OEM(相手先ブランドによる生産)を手掛けるオーダー・オブ・メリット・プランニング(OMP)は、この2月から新潟県阿賀野市にある水原事業所(工場)にJUKIのフルデジタル仕様・ダイレクトドライブ高速本縫い自動糸切りソーイングシステム「DDL-9000C-FMS」を導入した「アトリエ技術室」を開設しました。このほど東京・千駄ヶ谷の自社ショールームでCADやミシンのデジタル技術を活用した「OMPスマートファクトリープラットフォーム」を提案する展示会を開催、展示会場とアトリエをつないでサンプル縫製するライブ実演を行い、商社やアパレルメーカー、小売りなどから大きな関心を集めました。

スマートファクトリープラットフォームを提案

ー水原工場は婦人プレタ工場として知られた存在で、OMPが継承して4年目になっていますね。

現在70人で、人の採用が非常に難しい中でも今春は新潟市にある専門学校の新卒者3人が入ってきます。ドレス、ジャケット、コート、ブラウス、ボトムなどフルアイテムを生産していますが、モットーとしてずっと掲げているのが品質の重視。素材の物性をチェックし、前身や袖、襟などの工業用パターンは素材の収縮率を1、2mm単位で反映させていますし、品番ごとに手書きながら工程分析表もきちんと作成してきました。こうしたモノ作りが評価を受け、国内トップクラスのプレタブランドとお付き合いさせて頂いています。この2月からこうした工業用パターン、サンプル縫製を担当しているスタッフを集めたアトリエ技術室をスタートしました。スタッフは7人で昨年入社したCAD担当もいますが、平均24、5年のベテランたちです。今までのお客様にこれまで以上の高い品質を提供するとともに、我々が30年間の歴史の中で蓄積してきた技術、経験、知識をサービスビジネスに置き換えようというのが狙いです。そのためにはデータ化が必要であり、すでにパターンのCADはあるので、ミシンもJUKIのデジタルミシンを導入したわけです。約2カ月間、2人の熟練技術者で効果を検証するため、一人が先に縫いデータを作り、もう一人がそれを使って同じモノを縫って見たところ、ミシン調整が本当に楽になるという答えでした。デジタルミシンはそれだけアドバンテージがあると確認できたことが今回の展示会を開く一つのきっかけでした。

ースマートファクトリープラットフォーム展示会は大きな関心を集めました。

このプラットフォームはグループの宮崎(守)代表が構想した取り組みで、JUKIさん、東レACSさんの2社が参加、アジア・アパレルものづくりネットワーク(AAP)に協賛して頂きました。今、経済産業省がIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などのデジタル技術を活用し課題を解決していこうというコネクテッド・インダストリーズを提唱していますが、スマートファクトリープラットフォームもデータをつなげることでアパレル生産における生産性の向上と遺失利益の軽減を図るのが目的です。最近、アパレル業界ではSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを使った販売の仕掛けや予測システムが相次いで登場していますが、そこには生産現場とのつながりがありません。我々のアナログ的な縫製工場が存在して行くためにもコネクテッド・インダストリーズに取り組んでいくことが急務です。だから宮崎代表も、アパレル、商社、小売りなどと生産企業がつながる品質・技術のプラットフォームを構築する必要があると考えたそうです。アパレル生産向けでデジタルをテーマにしたこんな展示会は業界でも初めてで、商社の方々が多数来場されました。海外生産で一番の課題は品質の安定化ですが、一方で縫製現場では技術者が高齢化し、もうこれまでのように人だけに頼るのは難しくなっています。それだけに何か新しい仕組みを求められているんでしょうね。

ー具体的にどんなサービス内容を提供するのですか。

「コネクテッド・システム」と呼んでいますが、水原工場をメインにJUKI、東レACSのシステムを使って作成したサンプル、工業用パターン、ミシンデータ、縫製仕様書、工程分析表、コメント表をパッケージで提供します。これは発注側から料金を頂きますので、AAPのメンバーをはじめデータを受け取る工場側はまったくお金が掛かりません。

展示会場と水原工場のアトリエをつないでサンプル縫製をライブ実演

業界初のデジタル展示会を開催

ー展示会に参加した二社の提案は。

東レACSさんにはアパレルCAD「クレアコンポ」の「パターンマジックII3D」と仕様書作成システム「サイフォームマジック」を出展して頂きました。パターンマジックII3Dは、トワルチェックとパターン修正がCAD上で行える3Dバーチャルフィッティングソフトで、イメージを3Dで確認できます。またサイフォームマジックは海外の生産現場で活用できるように、これまでの日本語、中国語、英語に加え、ベトナム語の変換もお願いしています。

「9000CF」導入したアトリエ開設

ー会場と水原工場のアトリエをつないでサンプル縫製をライブ実演するデモンストレーションも行いました。

JUKIさんは、アイロン台を組み込んだ9000CFのミシンを持ち込んでくれました。そのミシンを使って、アトリエから来た女性技術者がジャケットの袖を縫製し、押さえ圧・送り歯軌跡・糸調子などのミシン調整データをタブレットで吸い上げ、水原工場のアトリエにメールで送付。アトリエでは女性技術者がそのデータを受け取り、タブレットで9000CFのミシンにデータを取り込み、同じように袖を縫うという実演で、アトリエの様子もライブで大型液晶モニターに映し出しました。これはデジタルミシンを活用すると、離れた場所でも同じクオリティーで縫えるということをデモしたわけです。また、アパレルのモノ作りはミシンだけで終わるわけではなく、当然アイロン工程が必要です。そのため袖をいかにしてきれいに付けるかというテーマで、私がアイロンのクセ処理などを取り入れた技術提案も行いました。

ーすでに中国工場とではこのプラットフォームを活用しているそうですね。

OMPグループの中国拠点である「澳美天工場」は遼寧省撫順市にあり、かつては約300人の規模でしたが今は100人強。ご存じの通り中国では縫製工場に来る人が減ってきていますので生産のボリュームではASEAN(東南アジア諸国連合)の工場に勝てません。小ロットで一定の品質のモノをクイックにこなすという役割になり、中国工場も日本と同様に"サービス産業化"していかないといけなくなっています。だから縫製現場の1ラインにはすべてJUKIのデジタル仕様9000CSを約20台設置、水原工場と同じようにアトリ技術室を設けてフルデジタル仕様を2台取り入れました。それで水原工場と中国工場をCADとデジタルミシンでつなぎ、人を派遣せずに動画を使ってライブで会話をしながらモノ作りをしています。中国工場といえども特殊素材や難素材がほとんどの現状の中、縫製には常に高度な技術が求められるケースが多く、さらにスピードも必要です。デジタルミシンデータの活用でミシン設定・調整にかかる作業負荷が大幅に軽減され、品質の安定化、生産効率化に役立っています。実際にプラットフォームを活用した生産に取り組んでみて、これはいけるという判断が出来たので、業界のみなさんにも使って頂こうということで今回提案したわけです。

「9000CF」を2台導入して開設した水原工場のアトリエ技術室

この導入事例に出てきた製品・サービス

導入事例一覧に戻る