生産現場に『JUKI』を探る Vol.9
アパレル生産現場第8回
角南被服有限会社

角南被服有限会社 代表取締役 角南 博和 氏

ジーンズはファッションアイテムの一つとして定着し、個性派アパレル・ブランドが次々と誕生している。日本のジーンズ発祥の地と言われる岡山県児島に本社を置き、岡山市箕島に工場がある角南被服は、「ジーンズアパレルが企画するパンツなら何でも生産する」(角南博和社長)というのがキャッチフレーズで、個性派アパレル・ブランドが主力の取引先だ。小ロットで手の込んだデザインがほとんどのため、培ってきたノウハウや、JUKI製などの縫製設備を生かし、一味違うモノ作りのニーズに応えている。

デニム縫製に最適な機種として導入した「DDL-9000A」

ジーンズ、カジュアルパンツで

角南被服の箕島工場はJR瀬戸大橋線の早島駅の近くにある。生産しているのは、今、若者に人気のあるブランドのジーンズやカジュアルパンツで、いずれも凝ったデザインの商品ばかり。角南社長は「上代で言えば15000円から20000円の商品が中心です」と話す。
同社は1918(大正7)年の創業で、会社組織にしたのが1952(昭和27)年と長い社歴を持ち、1990(平成2)年から社長を務める現在の角南博和氏が3代目。児島といえばジーンズとともに学生服、ユニフォームの産地で、同社も一時期は自社ブランドで学生服、作業服を手掛けていたが、先代の時期にジーンズなどのOEM(相手先ブランド生産)に一本化し、ジーンズの生産ではすでに30年近い経験がある。
人員は本社を含めて60人で、このうち箕島工場が52人。裁断は児島の専属協力工場で行い、箕島工場で縫製、本社で検品、出荷する。箕島工場では18人編成の2ラインでジーンズを生産しており、このほか2人がTシャツ生産を担当している。
同社は、かつては大手ジーンズアパレルと取引し、ピーク時は5ポケットタイプで1カ月の生産量が40000本にのぼる時期もあった。しかし、角南社長は「こんなことがずっと続くわけがない」と判断し、大手と取引していた最後の3年間に12、3人のラインを設け、あえて小ロットの受注を試みてきた。
こうした決断が功を奏し、台頭してきた個性派アパレル・ブランドとの取り組みが軌道に乗る。現在、取引先は14、5社で、6~7割は児島地区だが、東京や大阪の取引先もある。角南社長は流れ作業に乗るモノという前提で、「ジーンズアパレルが作りたいパンツなら何でも縫うというのがスタンス」と語る。
ジーンズ産地の児島でも最近は大型工場が姿を消し、20人以下の工場が大半という。このためアパレルが求めている、1000本以上の数量を短納期で生産出来る工場として同社は優位性を発揮する。受注は300本からを基本にしているが、厚物の14オンスのデニムから中・薄物のカジュアルカジュアルパンツなど素材は様々。「ノウハウがあるから角南に任せておけば大丈夫と一番難しい商品が入ってくる」と角南社長は苦笑するが、それも取引先からの信頼度が高い証しである。
同社はヨーロッパの著名ブランドの依頼で、ヨーロッパ市場で販売する商品を手掛けたことがある。その技術力は国内だけでなく、海外からも評価されている。

一味違うモノ作りで高い評価を集める角南被服

5台稼動している高速電子閂止めミシン「LK-1900A」

設備をベースにノウハウ

「ジーンズアパレルが作るモノならたいていはこなせる」と角南社長は胸を張る。その自信の基になっているのが、これまでに蓄積した設備を背景としたモノ作りのノウハウである。「社内には150台のミシンを保有している。一般的には人員の2倍持っていると多いと言われるが、3倍備えているので設備がなくて縫えないことは滅多にない。毎年かなりの金額の設備投資をしている」と語る。
最近設備したのがJUKIのダイレクトドライブ高速本縫い自動糸切りミシン「DDL-9000A」だ。5月にシンガポールで開かれたJIAM(国際アパレルマシンショー)に角南社長は一人で出かけ、会場で縫って確認した。「国内のミシンショーも出かけるが、ジーンズの機種が一堂に出展されるのはJIAM。シンガポール開催だったが、行って見ておこうと思った」。
若い頃からミシンを修理したり、縫製をしていた角南社長は、自分で縫ってみると、従業員が使いやすいかどうか分かるという。DDL-9000Aについては「デニムの生地を折って、厚い部分を縫ってみると、今までのミシンと比べて送りが違い、面白いと思った。14オンスのデニムが圧倒的に多いので、このミシンは厚味があるところをすっと越えてくれる」とメリットを説明する。
閂止めミシンもJUKIの高速電子閂止めミシン「LK-1900A」に入れ替えを進めており、すでに5台導入している。「従来のミシンでは厚味のある部分に閂止めすると針が折れたが、この機種は回転数の制御が可能だから対応できる。ストレッチの金糸でも最低の600回転まで落とすときれいに縫えた。閂止めの縫い目はデザインにも使われるので、入力しておくといろいろな閂止めを呼び出せ、一本の製品にたくさんの閂止めを入れることがあっても作業が楽」。
設備にはこだわりを持ち、導入したミシンはテーブルやスタッカーなど、いずれも何らかの改造を加えているし、ミシンはすべて揺れを防ぐため、高額だけど全停止のキャスターに取り替えている。アタッチメントもほとんどの種類は取り揃えている。
また、JUKIとの関係では、角南社長の長男である裕さんがこの四月に入社し、7月29日からJUKI大田原工場の那須研修センターで開かれている「マネジメントセミナー」に参加している。
受注をはじめ、工場に投入されるまでは角南社長が担当、現場の指揮は弟で箕島工場長を務める角南忠専務というのが役割。凝ったデザイン・仕様の商品が多いため、角南社長は「このミシンのこういう機能を使うと出来るとか、あのアタッチメントを使うといいと、ぱっと見て判断する」。提示された仕様が加工賃と合わない場合は、「中身をこう変えたら縫えます」という提案をする。取引先は児島に集中しているため、企画室を訪れ、企画段階で仕様を打ち合わせることも少なくないそうだ。
同社では昨年から定年退職者が相次いだが、代わりに20、30代の若手が8人入社してきた。その中の1人の男子社員はジーンズが好きで函館から児島に来て、求人を見て応募してきたという。若手が一挙に増えたため、平均年齢も四歳若返って42歳になった。「今日来た人に数時間指導すると、明日からは流れに入って縫える」ようにするためにもミシン、アタッチメントを重視している。
角南社長は「裁断の前日に発注書をもらえれば生産のスタートに間に合い、10日後には納品できる。納期も早いし、品質面でも商品に目が届く。トータルコストで考えると国内は中国に負けません」と国内生産の強味を強調する。

JUKIから「この一台」

本縫いの最高峰『DDL-9000A』

本縫いミシンの最高峰として「DDL-9000」シリーズは、1999年の発売以降、ダイレクトドライブによる優れた応答性・ハイロングアームの採用による操作性の向上と、それにともなう能率・生産性の向上、またドライヘッド化による油汚れの解消などで縫製不良の低減と能率向上がはかられ、幅広いお客様から好評を得てきました。
このDDL-9000をさらにグレードアップ、フルモデルチェンジしたのが「DDL-9000A」です。DDL-9000や同タイプの各社ミシンにおいては、その送り機構上、オペレーターに近い送り歯の手前の上下送り量が、送り歯先端の上下送り量より小さくなるという構成となっております。しかし更なる縫い・送り力向上のために、送り機構を新しい発想で変更し、送り軌跡の最適化を実現しました。
この改善により、送り歯手前の上下送り量が大きくなり布端の食い付き性能、段部の乗越え性能(送り詰りの解消)、低押さえ圧縫製での送り力の大幅向上を実現致しました。DDL-9000Aではこれによりスムーズな縫い始めと確実な送りの縫製作業を実感いただけます。
また、DDL-9000Aでは、多くのお客様の声から、セミドライ仕様を新たな商品レンジに加え、ドライ仕様・セミドライ仕様・微量給油仕様の3タイプの仕様を展開しました。お客様の要求に合った製品をお客様自身がお選びいただくことが可能となりました。
その他、縫い品質を向上する為に天秤軌跡の改善、糸道経路の変更によって可縫性の範囲を拡大し、素材対応力を大幅に向上致しました。また、オイル注油のし易さ、オイルタンクの容量アップなど、既存機種に対して寄せられたお客様の声を聞かせていただき、細部において反映するなど、本縫いミシンの最高峰としてお使いいただける機種を目指し開発致しました。

【工業用ミシン事業部商品企画部】

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