次世代のモノ作りに挑戦 第9回
株式会社ワールドインダストリーファブリック 「岡山技術研究所」 代表取締役 河名 一幸氏
多品種少量生産を「9000CF」でサポート
ワールドグループで生産系プラットホームを担うワールドプロダクションパートナーズは、生産系グループ会社として国内に6社8工場あります。ニット・ファブリック・ジャージーといったすべての素材に対応した工場体制とともに、高い技術を持つ染色工場を保有し、メイド・イン・ジャパンの良さを伝えるモノ作りに取り組んでいます。その中で岡山市にある「ワールドインダストリーファブリック」の岡山技術研究所は独自開発の素材解析・リラクシングのシステムを取り入れ、婦人服の多品種小ロット生産を手掛けています。JUKIのフルデジタル仕様・ダイレクトドライブ高速本縫い自動糸切りソーイングシステム「DDL-9000C-FMS」もそのサポート役を果たしています。
グループでファブリック縫製の拠点
ーワールドの生産グループで岡山技術研究所が布帛の縫製拠点ですね。
ワールドインダストリーファブリックは2010年に現在の社名に変更し、岡山技術研究所と淡路技術研究所(兵庫県洲本市)の2工場あります。岡山は1978年に設立、従業員はすべて日本人で97人(18年3月末)、年間生産数量は約43万枚です。百貨店系ブランドのジャケット、コートの重衣料生産が中心でしたが、今ではワンピース、ブラウスに加え、セットアップのような同素材を使った企画ではパンツ、スカートまで手掛けています。本当に多品種小ロット生産になっていますが、素材解析ソフトとリラクシング機を使った「ワールドプロダクションナビゲーター」(WPN)というシステムで難素材対応、難易度の高い生産をこなしています。人材育成でも毎年技能検定に挑戦し、社員の3分の1の33人が技能士で、1級が20人、2級が13人いますし、今年度も8人が受検します。13年には技能検定への協力で厚生労働大臣賞表彰を受けました。また岡山はファブリックの縫製拠点としてワールドプロダクションネットワークと連携し、海外品質安定活動を実施しています。ブランドから来たパターン、仕様書を岡山で量産設計し、海外のメーカーに送って、現地に出向いて技術指導するという役割で、今も1人を派遣しています。現在その担当は3人ですが、4人目を育成しているところです。一方、淡路は81年の設立で従業員数は93人、年間生産量は約40万枚で、ボトム・ジャージー商材を中心としたモノ作りをしています。
ーグループの国内工場はすべて純正国産表示制度「J∞QUALITY」の企業認証を取得されています。
岡山技術研究所を中心に取り組んでいる婦人服ブランド「リフレクト」の"匠ジャケット"は、16年に行われた「J∞QUALITYアワード」でパイオニア賞を受賞しましたし、今でも人気商品です。またこの10月から「アンタイトル」ブランドで黒をフィーチャーした「アンタイトル・ノエル」を発売したばかりですが、このブランドは岡山、淡路とワールドインダストリーニット松本技術研究所(長野県)の「匠」たちが作り上げたブラックアイテムということを前面に打ち出しています。技術研究所という名称の通り、ブランドのデザイナーやパタンナーと一緒に商品開発したり、相談を受けたりすることもあります。アンタイトル・ノエルもそんなブランドで、デザイナーやパタンナーとコミュニケーションを取りながらその意図をくみ取り、正確に安定した品質で製品を仕上げています。日本人の細やかな気配りができる熟練の縫製技術を生かしてブランドと一緒に作り上げていく、いわゆるメイド・イン・ジャパンを発信していこうという取り組みはいろいろとあります。
ーそんな中で岡山のモノ作りの特徴は。
まず入ってきた素材はリラクシングします。6通りの条件から混率と目付によってセレクトされた設定で生地の表面を変化させることなく、蒸気によって生地を元通りの状態に戻します。またWPNを作成するため工程寸法変化試験(収縮試験)、力学測定(曲げ、せん断、引っ張り、厚み、目付)のデータをワールドオリジナルの解析ソフトに入力し、出来上がり予測、パターン・延反・裁断・縫製・仕上げなどの工程別対策を抽出します。アイロンを掛けたり芯地接着すると熱が加わるので生地が縮んだりしますが、時間が経てば元に戻ります。それを試験上で工程ごとに再現し、出来上がりの寸法の予測を立てることにより品質安定につなげるのが目的です。そしてWPNで抽出されたパターンへの対応法をCADを使ってパターンに反映させ、品質の安定や生産性向上を図れるように工業用パターンを作成します。裁断もWPNのデータですから荒裁ちのない完全裁断ができます。芯地の裁断ではポンチ穴を空け、印入れ工程をなくすなどコスト削減に向けた取り組みも行っています。
ー縫製ラインには9000CFを導入されています。
現在、縫製現場は27、8人でジャケットや比較的大きなロットを流している量産ラインと、12、3人で100着以下の商品を縫製する小ロットラインの2ライン編成です。小ロットラインはフルアイテム対応で、コートやジャージージャケットを手掛け、次にはシフォンのブラウスなどを流すというようなケースもあります。この多品種小ロットラインに9000CFを集中して取り入れているんです。多品種小ロット生産に対応するため、ミシン調整を簡単にしたいというのが狙いです。縫製技術者の確保も大切ですが、設備の保全担当者不足も深刻です。多品種小ロットでは素材、デザイン、ディテールへの対応に苦労しています。熟練者が減少する中、若い人たちでも上手く流せるような仕組み作りが必要です。デジタルミシンを活用することはもちろん、JUKIさんと一緒にそういう課題を解決して行けたらと考えています。
送りタイミングの調整で裁ち端始末に効果
金関智彦・岡山技術研究所事業支援本部設備開発部長の話
フルデジタルの9000CFは16年から導入を始め、今は12台が稼働しています。普通に縫ったらきれいに行かないとか、手が掛かるといった時に、サンプル縫製でいろいろ試し、上手く行ったミシンの縫いデータを残して量産時に活用しています。例えば裁ち端始末である裾の細三つ卷きやパイピングはいつも困っていました。従来はミシンの後部を開けて、送りタイミングを調整しなければならなかったのですが、9000CFは針の動きに対して送りのタイミングをデジタルで簡単に変えられます。その機能を使うと三つ巻きもきれいに仕上がり、パインピングも斜めじわが収まったという効果が現れ、これはすごく大きかったですね。またファスナー付けで押さえを上げた時に送り歯が下がるので作業性がとてもいい。今までどうにもならなかった工程を解決できることが増えた感じです。縫製ラインでは先上げで1着縫製しますが、その時の縫い情報でライン内のミシンも同じ設定にしています。もちろん個々に微調整は必要ですが、切り替え時の調整がちょっと簡略できるのがメリットです。それとまだそれほど多くはないのですが、縫いデータをミシン内に保存して、リピート生産の時に呼び出して使ったりしています。9000CFは毎年増やしていく計画で、今期も来年3月までに8台導入する予定です。我々ファブリックの2工場と、ラ・モード(熊本県)、フレンチブルー(鹿児島県)の布帛系工場は隔週でテレビ会議を行っており、その場でこうした設備の情報も共有し、グループ内でヨコ展開をしています。