わが社のモノ作り戦略 第1回
ファッションしらいし 代表取締役 白石 正裕氏
アパレル生産の枠組みが大きな変化に直面している。中国が労働力不足や人件費の高騰などからチャイナリスクが叫ばれる一方、チャイナ・プラスワンが注目されているが、遠隔地に生産基地が移転することでインフラなどの新たな問題も浮上している。こうした中、国内生産が見直されているものの、国内の生産基盤は縮小しているのが実情。このためあらためて日本のモノ作りのDNAを掘り起こし、企画・販売における「日本発信」に呼応したメード・イン・ジャパンおよびメード・バイ・ジャパンの再構築が喫緊の課題になっている。「JUKI-アパレル工業新聞・コラボ企画」の新シリーズとして、アパレル生産が転換期を迎えている今、オピニオンリーダーの方々に日本発のモノ作りの考え方や今後の方向性を聞くことにした。第1回は東京でプレタのモノ作りを追求し、委託加工とともに自社企画・販売に取り組んでいる「ファッションしらいし」の白石正裕社長に登場して頂いた。
軸足は職人型で30%の自社企画
ー東京でプレタのモノ作りに取り組んでいます。
東京がプレタの産地と呼ばれるのは、私たちの一世代前の先輩が取り組んで来たからです。当時、人件費の高騰などから危機に見舞われていた都内工場が、打開策としてプレタの婦人服に目を向け、杉並、中野、三多摩のいわゆる山手地区の工場がいち早くプレタに着手したんです。安いものや付加価値の低いものはどこでも出来る、どこでも出来ない付加価値の高いゾーンをやろうと。私が修業した「ことぶき」もそういう考えで、今では当たり前ですが、カシミヤのコートやリバーシブルのジャケットを手掛けていた。それが僕らに自然に移ったわけで、その点ではラッキーだった。しかし、付加価値の高いモノ作りといっても、30年が経ち東京の縫製工場は縮小しました。うちが30人で規模的に上から3番目という話です。地方工場も中国の優秀な工場も、当時東京で言っていたような付加価値の高いモノ作りをクリアしてきたというのが現状です。
社内でパターンと縫製が会話
ー東京で頑張っている工場というのは。
洋服の総合的な技術力の蓄積度が高いところが、結果残ったと思います。プレタをやっている工場は自分たちが作った服は着心地が良い、品質が良いと言いますが、パターンから始まって、裏付けになる技術の蓄積度合いがやはり違っていると思います。僕らも積み上げた技術は厚いものがあると自負しています。それはパターンの修正能力、素材の対応力、それと服作りの1番面倒なクセ取りを含めたアイロン工程の技術などです。でも、それは1つ弱点でもあるんです。と言うのは、技術が積み上がって行くと工程が増え、生産性が落ちる。だけど会社のシステムとして積み上がっていかざるを得ない部分がある。パターン修正もしかりで、1つここの部分が大切だという話になれば、それを抜くわけにはいかない。きれいなものを作るというやり方が見つかると、手間が掛かっても技術者的にどうしてもそちらを選択してしまい、現場にも経営にも負荷が掛かる。ですから、上代から設定されるような今の加工賃の図式の中では工場経営が難しくなります。
ー委託加工だけでは限界があるというわけですね。
それで自社企画として10年前、まずウエディングドレスを始めました。オーダーだから素材の在庫や販売のリスクが少ない。自社企画の導入部分ではうってつけだと考えたが、スピード感がないので現場が混乱する。現場に良くないということで、ブランドを作って販売しようと考えた。でも、簡単にはいかず、相当な回数挫折し、5年くらい経って上手くいった。そのきっかけは経済産業省が実施した川中自立事業で1年間助成金を受けられたことです。当時、助成金で展示会を開いていたが、そこにたまたま伊勢丹のバイヤーさんが来てくれた。それで評価が高かったのでちょっと脈はあるんじゃないかなと思った。しかし、最終的に伊勢丹からは不特定多数に向けた企画は受け入れられないと断れました。売り場を提供した場合、その売り場は2日を置かずに変えていかなければならないし、すごく重荷が掛かると説明してくれ、納得出来た。そこで最後に、伊勢丹さんが望む服を作りますよ、と言ったんです。そうしたら本当にやってくれるの、それは逆にありがたいという話になった。後から気付いたが、最初から何でも作ります、という姿勢ではたぶん無理だった。その間、2カ月おきくらいに新しい企画を見せ続けた。ちょっとした言葉の情報に合わせて作って持ち込んだ。だからバイヤーさんたちも、きっとこの人たちは何でも出来ると思ったんでしょうね。
ー現在、新宿伊勢丹で販売している「ヌーヴ コンフィニ」(nouv confini)に結びついたわけですね。
百貨店では細かいオケージョンを設定しています。伊勢丹さんから作って欲しいと言われたのは小学校受験で母親が面接に着ていく時の服。通称お受験服と呼ばれているものです。出された条件が、色は紺、生地はウールのジョーゼット、シルエットはヒザが隠れる丈、なおかつ面接するので立って美しく座って美しくで、期間は2カ月間でした。2カ月後、紺の生地が調達できなかったので、黒のジョーゼットで作ったプロトタイプを持ち込んだ。すると試着した女性バイヤーの評価が高く、すぐに紺の生地で作って欲しいという話になった。僕らもこれが最初で最後のチャンスだろうということで全力を尽くし、改良して紺の生地で作り上げました。店頭出しは紺の量産用原反が間に合わなくて2006年5月の連休明けで、ほかのアパレルさんは4月20日くらいからスタートしていた。しかし、ふたを開けたら、うちの商品がよく売れたんです。それは話を頂いてから5月までの約5カ月間徹底的に研究したからだと思います。特に、細く見えて着やすい服という部分を掘り下げた。お受験服を着る人たちはどのくらいの動きが必要なのかを聞きながら、表生地で10着、シーチングで10着、合わせて約20着は試作しました。
ー味違う作りが評価されたのですね。
細くて着やすいというのはおかしな話です。でも、視覚が加わりますから、細いのではなく、細く見えればいい。細く見え、動きやすいように、服のあちこちにユトリをとるわけです。これはパターンだけでクリアしようとしても出来ない。僕らみたいに社内でパターンを引いて、現場で縫うから可能なんです。パターンと縫製現場のスタッフが会話し、この生地だったらどこが限界点か対策を探りながらパターンを引く。例えば袖ぐりで出来ないから肩に回そうとか。そんな打ち合わせが出来て、立体的に仕立てていくわけです。
僕ら的な生産現場が出来ることはそういうことで、それを思いっきり入れないと後悔すると思った。だから持っている知識を全部入れた。伊勢丹では、試着して購入につながる試着購入率を調べているそうですが、圧倒的にうちの商品は高い。同じ体形の人が着比べると、あれ、どういうことと感じて頂ける服なんです(笑い)。
ー自社企画の今後は。
伊勢丹では、このお受験服に加えて、ウエディングブライダルショップでドレスを販売することにしています。同じことばかりではしょうがないので、新たな柱を作ろうという目的です。今、自社企画が売り上げの25~30%で、これ以上は増やす考えはありません。それは僕らの軸足が職人だから。伊勢丹や専門店が付き合ってくれているのは職人型だから面白いと思って頂いている。自社企画に取り組んで工場の中にアパレルの機能が確立した。企画、パターンから素材や副資材の調達、さらに小売りとの対応まですべてクリアできるようになった。これが大きいですね。
手作業に置き換わる機械化を
ーこれからの縫製現場での課題は。
いかに短い時間で作れるようになるかという部分です。きれいなものを作ろうとすると負荷と時間が掛かりますから、どうやって詰めていくか。僕らは従来から職人と呼ばれるような技術者を養成して時間を短縮することに努めてきた。そのための技術の研さんが時間の短縮や利益に大きく影響するわけです。もう1つは、JUKIさんにもお願いしたいことですが、手作業の部分をミシンや機械に置き換えることを前向きに考えなければならないと思っています。そうでないといつまでも人に負荷が掛かるばかりです。JUKIさんとの関係では、1番新しく導入したのが1本針本縫いの完全ドライタイプで、油を使わないのが良いし、社員も軽くて縫いやすいと話しています。今後、入れ替えるとしたらあのミシンですね。そのほか以前から新しい製品開発のテストを依頼されたりしています。最近、ニューヨークでコレクションの手伝いをしていますが、そこでもJUKIのミシンはメンテナンスが簡単だし頑丈で精度が高いと、やはり海外でも評価されている。あえて言えば、僕らはファッション業界にいるのであまり機械機械しているより、きれいなデザインのミシンを作って欲しいですね。
JUKIは世界のアパレル生産を全力でサポートします
世界初!1台で7パターンに対応
1本針自動ベルトループ付けミシン発売
JUKIは、自動機の提案に力を入れていますが、3月1日からスラックス・カジュアルパンツのベルトループ付け縫製に最適で、7種類の縫製パターンを内蔵し、フレキシブルに多様なベルトループ付けに対応できる自動機「1本針自動ベルトループ付けミシン(AB-1351)」を発売しました。
ベルトループ付けは通常、ループを定寸であらかじめカットし、ループを折り、身生地へ縫い付ける手順を踏みますが、当機では、オペレーターは身生地をセットし、スタートスイッチを押すだけで、ベルトループのカット、折り、縫製をミシンが自動で行いますので、生産性を大幅に向上させることができます。
ベルトループ付けの縫製方法には、アパレルメーカーや製品デザインにより様々なタイプがありますが、当自動機には最もよく使われる7種類の縫製パターンを内蔵し、操作パネルからの操作で容易に縫製パターンを変更することができます。また、JUKI独自の「ループ供給と折込機構」により、バラツキのない美しいベルトループ付けが可能となります。
当機は、当社自動化ミシンのラインナップに新たに追加した新機種です。自動化を従来より推進しているお客様はもちろんのこと、賃金高騰・労働力不足などにより、生産性を向上させるミシンが重要視されている中国などで、生産性と安定した縫製品質を提供する当自動機で販売を拡大していきます。
特長
- 生産性の向上
- 操作性の高いパネル(IP-420)を使用していますので、ループ縫製形状や縫製サイズ、縫いパターンの変更、縫製位置等の細かな設定変更もパネルから簡単に行うことができます。また、サイクル縫い設定も可能です。
- パネルに記憶させた以前のデータを呼び出せますので、リピート時の段取り時間の短縮が可能です。
- オペレーターはミシンへ身生地をセットするだけですので、ミシンが縫製している間は作業の待ち時間が生じます。そのため1人のオペレーターが2台同時に操作することも可能で、一方のミシンの稼動中に、もう一方の身生地をセットすることで、さらに高い生産性を実現できます。
- 脱技能・品質の向上
通常のミシン(汎用機)の場合は、縫い寸法とゆとり量を安定させるにはスキルが必要ですが、JUKI独自のツイン駆動式のループ供給機構を採用しましたので、ベルトループを引っ張るクランプと送り出すローラーが同調して、柔らかく伸び易い素材でも、正確なベルトループ長さを確保します。これにより、作業に不慣れな新人オペレーターも、ベテランオペレーター同様に、ゆとり量(ベルトの厚みなどを考慮した余裕分)が一定した縫い付けが可能となり、バラツキのない美しいベルトループ付けが行えます。