生産現場に『JUKI』を探る Vol.3
アパレル生産現場第2回
ジャパンルック

ジャパンルック 迫田宗左衛門社長

数少ない国内のシャツ工場の中にあって、ジャパンルック(福岡県大牟田市宮山町、迫田宗左衛門社長)が注目を集めている。現代感覚を持った若い迫田社長が、一族に流れるシャツ職人のDNAを引き継ぎ、電子化された最新機器を独自に使いこなすことで、メード・イン・ジャパンの迫真のモノ作りを行っている。7月半ば過ぎ、福岡空港から車で約1時間40分、大牟田市の同社を訪問した。

シャツ職人のDNAが開花

迫田社長はジャパンルックの前身である迫田布帛の4代目に当たるという。曾祖父が大正時代に大阪で創業したとされ、祖父の代からは、6人いた兄弟が皆シャツ職人というシャツ一族であった。時が移り、迫田社長は米国の大学に行っていた今から15年前、父親の病気で日本に呼び戻された。

ジャパンルックはその5年前の昭和62年に設立されていた。母体は一族の会社であるトミヤ繊維工業。その福岡工場という形で子会社を作り、父親は大阪と大牟田を行ったり来たりしていた。しかし、「父も48歳くらいになって、最後は普通にミシンを踏み、阪急などのオーダーだけを数人で作るということで、別にジャパンルックを作った」。父親は根っからの職人だったが、時代の流れで工業化の波に乗らざるを得ず、職人の技を発揮する機会は失われていた。人生の後半を迎えて再度、職人の血が騒いだようだ。

父親の仕事を手伝うことになった宗左衛門氏だが、工場に翌週の仕事はなかった。取りあえず、オーダーにこだわっておられないため、大手のシャツメーカーから仕事を取った。量産品を受けたらミシンが足りない。名古屋から進出した婦人服工場が撤退するというので、ミシンと人を受け継ぎ50人くらいになった。そこから本格的な量産をやるようになった。

その間、迫田氏は朝から晩までミシンを踏んだ。終わるとミシンの修理と鋏を研ぎ、型紙を作ったり、厚紙を作ったりした。「親父とやった最初の4、5年は、一瞬でもしゃべることが許されない。来て3日目くらいでシャツを作れ、と言われた。それからずっと毎日一着ずつ作った」。

裁断から縫製まで一人で全部出来、どんなラッパも裾の三ツ巻きもうまかった父親。「自分で言うのもなんだが、親父みたいにミシンを縫う人は見たことがない。全部の工程が完壁だった」。迫田社長が語る父親にまつわる職人のエピソードは尽きない。紙面の都合で割愛するが、要は、迫田社長は身近なところで縫製修業と職人としてのDNAの継承を行ったのである。

しかし、単なる職人に終わらないところが4代目の凄いところである。受注先も、「自分が好きだった」ということで、飛び込みでユナイテッドアローズから受注を取り、ファイブフォックス、フランドル、ジャヴァやビッキーと続いた。現在は、シップス、トゥモローランド、メルローズ、オンワード樫山、三陽商会、伊勢丹(オーダー)などに広がっている。

そうした過程で、工場の倉庫に積まれてい3000枚もの型紙を発見した。昔のシャツの型紙がたくさん残っていた。「本当の本縫い仕立てのシャツで、完全に昔のブリティッシュスタイルのシャツ。ノッチを入れたり、線を引いたり、いろんな人が考えた跡、ノウハウがある。もの凄く新鮮だった」。時代は1回りして、そうした仕様のシャツを求めていた。これを2年がかりでCADに全部入れた。

迫田社長が、数年前から取り組んだのが自社ブランド「ZUNBANA(ズンバナ)」による高級オーダーシャツ。歴史の詰まった型紙の発見後、世界の著名なシャツを購入して徹底的に研究。こだわりのオーダーシャツブランドを完成させた。紳士服のWEBサイトで3週にわたって売り上げ一位を記録した。

工場経営者としてのバランス感覚も優れている。現在、既製95%、オーダー5%で、既製では制服が工場の稼働に大きく貢献。全国の県警の制服などの官需と民需、学生服、さらにアローズを初めとする一般アパレル。「量産の官需と民需、オーダーがあったから、今までやって来られた」と迫田社長。受注は順調だ。自工場のキャパは2万3千着だが、訪問時の7月の受注は5万着。量産の外注工場に出している。だが、「アローズなどのセレクト系のものは絶対うちでやる。本縫い仕様は、今残ってる工場でやらない」ためだ。

2本針で本縫い技術復刻

縫製の現場に入ると、JUKIのミシンのオンパレードである。90%がJUKIという。一本針本縫い、電子閂止め、二本針本縫い、穴かがり、ボタン付けなど、ほとんどが最新機種。JUKIと取り組んで3年。もちろん全てがJUKIではないが、2年間で1億3千万円、3年間で1億7千万円の設備投資をした。投資がこの時期に集中したのは、JUKIのミシンが電子化されるのに合わせたため。「実際、電子化されたものは効率が全然違った」という。

電子化に合わせて入れ換えたメス交換不要の穴かがりなどは実質で25%から30%違った。「今オペレーターの腕前は落ちている。負荷をかけないで枚数を伸ばそうとしたら、根性論では無理。小ロットの品番ごとに振り幅を換えたり、中を換えたりしていたら、その時間だけで大変。穴かがりでも本縫いでも、どれだけ自分の意思と一緒に針が動くかという融通性が一番の問題。ダイレクトモーターは間違いなくJUKIは優れている」。その違いは、「最初の走り。意思の伝わり方が違う。全然軽い」と話す。

問題は、電子化されても、基本的な機能が損なわれたら意味がない。その点について迫田社長は、「これが面白いところで、損なわれるどころか、無茶苦茶良かった。うちは14個の穴かがりを1日1000枚、年間3万個から4万個作る。穴かがりの担当者が買って一年経って、初めて糸が切れたと驚いていた。それくらい糸切れについても、安定している。前機種は寄せたりするときに糸調子を変える。今は全部糸調子もパネルで操作出来る。1回決めたことを登録出来るので、変ないじり方をしない。電子化は、わかりやすく言ったらそういうことでは」と解説してみせる。

二本針については、ジャパンルックならではの使い方にJUKIも唸った。「針送りのケンケン付き(片針停止装置付き)の二本針を導入したが、ものすごく安定している。ダイレクトモーターなので、糸抜けもスムーズ。走りもいいし、止まりも良い。これはすさまじいメリットだった」という。その使い方とは―。

同社は二本針LH-4168を袖付けの本縫いで使っているのだ。「本縫い袖山付けというのは、アイロンで5mmずつ折らなければならなかった。どうやって折るかと言うと、すごい技術が要る。JUKIの新しい二本針は2mmまで袖山が折れるんです」と、迫田社長はここで紙で説明を始めた。通常、ラッパで地縫いをして二つに折って最後に伏せるのだが、決定的な欠点がある。今の山は高いもので20cmある。量産型の8cmや10cmだったら、そのラッパが使えたが、20cm以上あるので、ラッパは使えない。袖山を一枚一枚折らないといけない。「500枚のオーダーが来たら、1000枚。1000枚あったら、2000枚。この2000枚を折るのが、慣れた人で片方13円、両方で26円。20万枚あったら、520万円かかる。これが一発で、折らなくていいようになった」。外注を含めて年間700万円くらいかかっていた経費が浮き、時間が短縮した。

普通は、襟のダブルステッチなど、ダブルものに考えるが、迫田社長は裏折り用に考え、本縫い技術の復刻バージョンを完成。「昨年の最大のヒット」を物にしたのだ。

先に見た職人のDNAを自分のものにした執念。本物を求める市場のニーズへの感度。そうしたアナログ的な職人技術と感性が、電子化された機械設備を使いこなし、時に開発者の意図をも超えて差別化された価値を生み出す。グローバル化の競争の中で、生き残りを図ってきた国内のアパレル製造業に今、新たな方向性が見えてきた。

LH-4168

JUKIから「この1台」
2本針本縫ミシン「LH-4100」シリーズ
最高峰目指し自信作

当商品の企画するにあたってのコンセプトは、『従来機との差別化』でした。2本針本縫ミシンは各社で発売されておりますが、1本針本縫ミシンなどと比較して、お客様の満足度はまだまだ低いと感じていたため、2本針ミシンのフラッグシップマシンを目指し、この商品の開発を行いました。

その第一として、縫い品質の向上を目指しました。
1本針ミシンは、ジーンズやブラジャー、ワイシャツの飾り用工程などに広く使われ、その商品の重要な品質ポイントとなるため、送り力の確保と、パッカリングの低減が重要な課題でした。更に、薄物から厚物まで、素材変化にも柔軟に対応する縫いを追及するため、糸道経路や送りタイミングなどの見直しを徹底的に行い、薄物縫製時の低張力での縫製を可能とし、可縫範囲も大幅に拡大しました。また、騒音の大きさも2本針ミシンの抱える問題点でしたが、オペレーターの使い心地にも配慮し、静音性が高く、柔らかくムラのない縫目を創り出すJUKI独自のソフトオープナー機構を採用しました。

作業性面では、商品の取り回しが容易なハイロングアームの採用、片針切替機構付きモデルでは、1本針での高速縫製を可能にしたほか、片針停止機構を自動的に解除するコーナーティーチング機能を装備し、生産性や信頼性が向上します。

メンテナンス面でも、針幅変更時に面倒であった釜タイミングの調整が不要な機構を採用しておりますので、従来に比べ、半分以下の時間で調整が可能です。

もちろん、全てのクラスで面部のドライ化を標準装備しておりますので、針棒や天秤からの油の飛散を防ぎ、清潔な作業環境を提供いたします。

LH-4100シリーズはお客様のこだわりにお応えすべく、2本針の最高峰を目指したこだわりのミシンですので、今後、縫製現場での定番になる事を期待しております。

片針停止装置付き2本針本縫いミシンが秘密兵器に

楕円軌跡を描くJUKI独自のソフトオープナー機構

コーナーティーチング機能

釜タイミングの調整が不要な機構

作成:PMT/LH-4100チーム

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