次世代のモノ作りに挑戦 第12回
ホープインターナショナルワークス株式会社 代表取締役CEO 髙村 三礼氏
製販一体型のファッションテック企業へ
ホープインターナショナルワークス(本社大阪市、髙村三礼社長)が大阪の市街地に開設した都市型スマートファクトリー「ソーイングラボ」が8月1日から稼働を始めました。繁華街の心斎橋にも近いオフィスビル7階のワンフロアにあるラボは約400平方mの広さで、CAD/CAMやJUKIのフルデジタル仕様ダイレクトドライブ高速本縫い自動糸切りソーイングシステム「DDL-9000CFMS」を多数導入。主力のOEM(相手先ブランドによる生産)に次ぐ柱を目指すリメイク事業の生産体制を強化し、受注増で8週間掛かっている納期を約2週間に短縮するのが狙いです。またOEMでもサンプル・小ロット向けに取り組むとともに、新たなモノ作りの発信拠点としていく考えです。
大阪で都市型スマート工場が稼働
ーOEMのビジネスがスタートですね。
もともと繊維商社にいて、2010年に独立、この会社を設立しました。その頃、セレクトショップが台頭していましたが、商社のOEM担当者は商売には強いが、最終の技術の部分は工場さんに丸投げしてしまうことが多くありました。当社は工場と繊維商社のいいところをミックスした「ソーイングファクトリー商社」の商標を取得していますが、デザイナーさんや企画担当者の方のニーズを満たすため技術に強みを持つ商社を目指してきました。だから本当にファッションが好きで技術を持っているような人を育てていこうというのが会社のコンセプト。と言うのも、商社時代に自分でCADを覚え、仕様書を作成していたら、商社マンでこんなことができるのってすごいと言われ、この方法は営業につながるなという体験があった。だから4年前に本社を現在のビルに移転したとき、小さいながらも社内にミシンやアイロンを備えたラボを設けました。技術の部分をお客様の安心感に変えているわけです。
ーそういうモノ作りに対するベースがあったから新規事業としてリメイクのビジネスに乗り出されたわけですね。
そうです。OEM事業の業績は伸びていますが、最近環境がますます厳しくなり、このままでは疲弊するだろうという危機感を抱いていた。それでBtoC(企業対消費者取引)を考えなきゃいけないと。しかも在庫を持たない新しいビジネスはないかといったときに、モノ作りの力が生かせるお直しのニーズがあるんじゃないかということで3年前に大坂・南堀江に第1号のショップを開店、リメイク事業を本格的にスタートしました。ゼロから服を作っているボクたちが立ち上げたので、洋服のリ・デザインや大胆なお直しが出来るのが特徴です。そのノウハウで作るとお客様は価格が高くても喜んでくれますし、中には手紙まで頂けるんですよ。だから需要は確実にあると見ています。日本には着られない服が10億着あると言われ、服の廃棄問題がクローズアップされていますが、お直しの価値が高まれば捨てられる服が一着でも少なくなっていくんじゃないかと思っています。ボクらは本業のOEMで年間60~70万着くらい生産していますが、リメイクによる循環型の取り組みを始めました。こうした体制をアパレル業界全体でやっていければ社会貢献になるし、日本で成功すれば世界に持って行ける。世界だって200億着捨てられていると言われているので、ビジネスチャンスがあると思っています。
ーショップ展開も進めてこられました。
大切な服を預かるのは信用の商売ですから、リアル店舗でやるべきだと考えたのですが、最終的にはネットでやりたいので「サロンド・リデザイン・クローゼット・ネット」というネットを意識した店名を付けています。従来のお直し屋さんと異なり、次世代型リメイク&カフェの店構えにしています。服のお直しをするラボとカフェを融合したショップというのが特色で、カフェ内にガラス張りで職人の作業空間をつくり、洋服がリメイクされる過程をコーヒーを飲みながら楽しんでいただけるようなショップです。ボクは職人は格好いいと思っているので、その姿を見てもらいたいと。百貨店さんも気に入っていただき西武池袋本店、そごう千葉店にも入っています。また今年夏には原宿に路面店を出しました。原宿店では自分たちで勝手にリメイクした服を売り出し、テレビで紹介されたこともあって、三重県から来て買ってくれたお客様もいます。ショップではクリーニング屋さんと組んで高級クリーニングの受け付けも始めましたので、総合的なリペアができるようにしていきたいと考えています。
デジタルミシンなどを使いリメイク事業の生産を強化
ーデジタルミシンなどを活用したソーイングラボが稼働しました。
工場とすぐに行き来できなければ意味がないので、ソーイングラボは思い切って都心の本社近くに設けました。直近で言えば、リメイクの受注があふれ八週間待ちくらいになっているので、これを二週間程度にしたいというのが目的ですね。ショップだと作業途中で接客しなければならないので効率が悪い。それでセントラル工場として、あふれたオーダーを集中してやれる環境を整えたわけです。WEBチームも併設しており、お客様の同意のもとでビフォーアフターの事例をネットで紹介する予定です。これからは丸縫いができる職人の育成がキーになります。今は社員だけですが、インターンの学生さんなどにも気軽に来てもらえる状況を作って、若手の育成にも力を入れていき、最終的には五十、六十人の工場にする計画です。一方、お直しの業務拡大にとどまらず、OEM事業でも先端テクノロジーを取り入れた新しい形の工場という位置づけを狙っています。ボクらのようなベンチャー企業の試みにJUKIさんからも応援していただけ、デジタルミシンを8台導入、さらに7台増設する予定です。ミシンの稼働を数値で見られるというのはすごいことで、このミシンを使えば工場運営を効率化できる部分がかなり出てくると思います。
ーファッションテック企業を目指していくということですが。
今、ファッションテックがいっぱい入って来ていますが、企画や販売系が中心でモノ作りはまだまだ労働集約型。モノ作りに携わっている人たちの価値を上げないと現状から抜け出せませんし若い人も続いてきません。海外の高級ブランドの職人はリスペクトされて給料も高い。この差を何とかして埋めていきたい。当社の取締役には異業種でロボットを作りに携わった人もいます。彼らのアイデアなどを入れて一気通貫の製販一体型テックを確立したいと考えています。それにはボクたちみたいに繊維の生え抜きで、工場のことも知っているし、販売のことも知っている人間が最新機器を使わせて頂いて、ボクらなりのつなぎ方などを意識した新たなモノ作りの仕組みを作り上げたいというのが最終目標です。そのために今の最新設備をまず使いこなし、JUKIさんと取り組んでボクらのアイデアを反映させていくことができればと考えています。